2008年03月05日

Alfie

今日は、英語の歌をみなさんに紹介したいと思います。

この歌は、1966年に映画の主題歌として作られました。
Burt Bacharach という方の作品です。
知っている人はいらっしゃるでしょうか?

女性歌手のカバーが多く、
特にホイットニー・ヒューストンのおばさんの
ディオンヌ・ワーウィックの定番となっています。

こんなに深くてあたたかい曲は世界にきっと数曲しかないでしょう。
仕事の疲れを癒すことマチガイなしです。
細かいところは気にしないということで、適当に意訳してみました。



What's it all about /Alfie /
人生って何なのかしら アルフィ

Is it just for the moment, we live/
今が良ければそれでいいのかな?

What's it all about, When you sort it out, Alfie /
いろんなふうに考えてみたときに

Are we meant to take more than we give /
大切なのは自分の幸せ?

Or Are we meant to be kind /
それともみんなに親切にすることなの?

...And if... / それでね……


Only fools are kind Alfie, /
正直者がいつも損をするなら

Then I guess it is wise to be cruel, /
いっそ冷たく生きた方が賢いかもしれない

And if life belongs only to the strong, Alfie /
そうして強い者だけが生き残るっていうけれど

What will you lend on an old /golden rule, /
あなたはこの古い黄金の法則 どう思う?

As sure as I believe /
私は信じてるの

There's a heaven above, Alfie /
天国が確かにあるってことを

... I know there's something much more /
それでもっとすてきなものも知ってるのよ

Something even non-believers can believe in /
なーんにもを信じない人でも信じられるものを

I believe in love, Alfie /
私は愛を信じてるの アルフィ

Without true love you just exist, Alfie /
愛がなければ、わたしたちはただそこにいるだけ

Until you find the love, you've missed. You're nothing /
愛を見つけたとき、あなたは初めて命の意味を知るの

Alfie..../ アルフィ!

When you walk let your heart Lead the way, /
自分の心に従って生きるんだよ

And you'll find love any day /
そうすれば きっと愛は見つかるからね

Alfie... Alfie... Alfie... .... /
アルフィ……  アルフィ……  アルフィ……



メロディを伝えられないのが残念ですが、
ぜひ聴いてみてください!
posted by marl at 02:25| Comment(40) | TrackBack(3) | 好きな歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

A.Bの伝説

 三人の男が無残な姿で倒れている。


「……藤井さん! こっちは前中! 木島さんまで!」


 現場にかけつけた林は、
 三人のうち一人が微かに動いたのを確認した。


「木島さん、生きているんですか? しっかりしてください!」


 木島はゆっくりと目を開けた。


「いったい何があったんですか?」


 林は木島の上体を起こして問いかけると、
 木島は胸を苦しそうに押さえながら答えた。


「……その男は東一局、リーヅモドラ4、12000を上がった」


「12000……」


「……南一局には、親っかぶりの痛手から回復傾向にあった前中に、
 リーソクピンフ、イーペーコーイッツー、
 しかも雀頭がドラドラという倍満16000を食らわせた」


「16000……」


「……独走態勢に入って迎えた南二局の親番、
 男はさらにピンズのチンイツ、親満の12000をツモ上がった」


「12000……」


「……そして迎えた南二局三本場、
 男は前中の懲りないリーチを追っかけた。

『うわっ!!!』

 ソクヅモでそう叫んだ男の手牌から現れたものは、
『四暗刻』という古代の魔物だった!!」


「ええっ!」


「封印を解かれたその魔物は激しい閃光を放ち、
 16000オールという凄まじい大打撃をあたえた。
 左右の藤井、前中は声も立てずに即死、
 対面の俺も芝6本を残すのみの大惨事となった……」


「よ、48000!?
 合計で10万点を越えているじゃないすか!? その男の名は?」


「……グ、グハッ!」


「木島さん! しっかりしてください! おい!」


 木島も息絶えた。


 その後の林の調べによると、その男のイニシャルはA.B。
 この半荘だけで10万点以上、
 +140近くを叩きだした彼はその日の麻雀を+200で終了、
 これを境に『神』と呼ばれ畏れられているという。
posted by marl at 01:22| Comment(0) | TrackBack(0) | マージャン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

加速する社会の中で考える

今から五十年程前、日本は戦争をしていた。

私は戦争を知らないから何とも言えないけども、
神風特攻隊、一億総玉砕に象徴されるように、
国のために戦って死ぬような人間が理想的であると
されていたんだろう。

カンボジアでポルポトって人が政治をしていた時、
権力を持った子供が整列した大人を銃で撃っていたのをテレビで見た。
どちらも信じられないような話だけど、
時代や場所によって理想的とされる人間は変わるということか。
教育とはその時代の社会に必要な人間を育てることを
目的としているのかもしれない。

それじゃ戦後の日本や世界はどんな人間を育てたかったのか
と考えたら、やっぱり優れた人間やと思う。
だから教育は、努力して人と競い合わせることによって、
人に負けない人間、能力の高い人間を育てようとしてきた。

さらに世界は競争が激化していて、
あらゆる組織はさらに優れた人間を欲しがっている。
教育もそれに応えるがごとく、
偏差値教育によりバンバン能力を磨かせてきた。
その反動でゆとり教育が立ち上がったが、肝心の大人社会は
ゆとりがなくなる一方だから、またその揺り返しが来ている。

確かに戦後、日本は何もなかったやろうから、
優秀な人間がたくさん必要やったと思う。
そして技術を発展させて戦後を乗り切り、ついには経済大国となった。
それで俺みたいな若い人間が、
今のようなモノの豊かな社会に生きることができるようになった。
それはホンマにありがたいし、感謝している。

しかし今の社会は、すべてが無機質で機械的になってる。
多様性というのか、個性というのか、
いわゆる人間らしさがなくなってしもうた。
昔はもっと人の温かみがあったはずなのに、
いったいどうなってしまったんや。

教育もそう。
缶詰を箱詰めして出荷しているのと同じように見えた。
安定した品質を持つ製品を作ることを目的とし、
出てきた不良品ははじいてるように見えた。いまはどうですか?
知っている方がいたら教えてください。

思うに、工業を発展させた同じやり方で
人間も作ろうとしたのだろう。
幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会という
ベルトコンベヤが組まれた工場を、
品質に応じて自分という製品が進んでいく、みたいな。

しかし、この社会全体が巨大な機械、
冷たいコンピューターみたいになっていく限り、犯罪も増えるだろう。窮鼠猫を噛むの例えどおり、
人間追い詰められたら犯罪でも何でもするから。

今、日本は飽食の時代と言われ、
一見衣食は足りているように見えるが、
明日の生活に不安を覚えたり、
実際に生活に困っている人がいる以上、
本当に足りているとは言えない。
衣食足りて礼節を知るという意味は、
生活に何の不安もなくて心が満たされている時、
初めて礼節を守れるという意味だろう。

ところがこのご時世、生活に不安がない人なんて少ない。
それでも日本は裕福な方で、たとえば世界には
労働者が40億人いるらしいが、13億人が一日2ドル以下
の収入しか得られていないのである。
心にゆとりどころか、ほとんど満たされていないんじゃないか、
とさえ思うときがある。

そんな裕福な日本の労働者は仕事におわれて残業の嵐。
従って今後、自殺者がさらに増えても何の不思議もない。
私も普段はわりとニコニコしているつもりだけど、
こんな忙しくて夢のない世の中、
楽に死ねるならとっとと死にたいと思っている。

少子化なんて言うけども、当たり前や。
子供なんか産んでもしんどいだけというのは
若い奴はよく分かっている。

生まれてくる子供もかわいそうや。
地球環境がさらに汚染されて、どんどん厳しくなる社会に生まれて、
ひたすら戦って争ってどやされてボロボロになって、
もらえるのかどうかも分からない自転車操業の年金や保険に
頼るしかない孤独な社会に自分の子供を放り出したくはない。

それでも電車やエレベーターの中で小さな子供を見ると、
やっぱり微笑ましく思う。
やっぱり何かをせなアカン、
この社会を何とかせなアカンって強く思う。
それでも社会は忙しく動いているし、
そんな未来がどうのこうのって考えている余裕があったら仕事しろと
上司に怒られるだろう。

おそらく地球の未来だとか、
天下国家を考えているサラリーマンなんて
今の世の中ほとんどおらんのじゃないか。
若い奴がウンチクを垂れたら、「青いな。」なんて言われるだけ。

まあ確かにその通りではあるんだけども、悲しいとは思わないか。
社会を引っ張っている大人が未来を考えなくて、
ただ目の前の仕事をこなしているなんて幼稚すぎるのではないか。

確かに今は未来どころか、
明日食えるかどうかっていうくらい切羽詰っている。
そして目の前の仕事しか考えられなくなるぐらい本当に忙しい。
狂気の沙汰である。

明るく楽しく、今を生きている人には暗いなあと
言われるかもしれんが、この社会はホンマに夢も希望もない。
こう思うのは俺だけなんだろか? 
それともみんなどこかで失望して夢見ることを諦めてしまうんだろか?
みんな黙っているし、割と楽しそうだし、そこが分からない。

それでも梅田駅で満員電車に共に突っ込んでいく人々を見ると、
みんな頑張って働いているんやなあと思う。
こんな厳しい世の中なのに、
俺が生まれる前からオヤジは仕事をしていて、
もう三十年にもなるんやなあと思うと、
いろいろと大変やったやろうなと時々フッと思う。
これから俺がその道を歩むんやなあと思うと恐ろしくてゾッとする。

仕事を辞めた人の話や噂を聞いたら聞いたで、
そりゃこんだけしんどくてオモロなかったら辞めるわなって思う。
やっぱりみんないろいろと大変なんやで。

そして、とにかく忙しくて何かと腹が立つ世の中であるけども、
たくさんの人と一緒に笑っている時、
唯一心が満たされる気がするのである。

(続く)

(この文章はわたしが25ぐらいのとき、社会人になった頃、
 現実の社会を知って感じたことを、ストレス発散的に書いた
 ものです。33になってちょっと修正しながら書いていきます)
posted by marl at 00:51| Comment(0) | TrackBack(1) | 教育から考える社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月03日

遊んで暮らそう

 突然テレビで大統領の演説が流れ始めた。


「みなさん! 毎日のお勤め、大変お疲れさまです」


 国民は突然の大統領の演説に耳を傾けた。


「今日わたしが話したいことは、新たな経済政策についてです。
 と言いますのも、わたしはこれまでたくさんの経済政策を
 打ってきましたが、失業率はいつまでたっても50%台なのです。
 他の国の大統領さんにも聞いたんですが、
『ちょっと異常じゃないですか?』と言われちゃいました」

 
 国民はじっとテレビを見ている。


「わたしはこの失業率を見て、
 そうか、半分の人が働いて、半分の人が遊んでいるのだな、
 だからわたしの経済政策もたいしたものだ、と思っていました。
 しかし、まだまだ全然ダメ!」

 
 国民はじっとテレビを見ている。


「なぜダメなのか。
 それは、みんなが楽しく遊んで暮らしていないからなのです。
 そこでわたしは考えました。
 みんなが遊んで暮らせる社会を実現します!
 もうみんながお金のことで困ったりしない、心配したりしない。
 そんな究極の政策をいま、発表します」


 国民はじっとテレビを見ている。


「たったいまから、みんなの銀行口座をひとつにします。
 名づけて、『みんなの口座』」

 
 国民はじっとテレビを見ている。


「その口座はこの国の国民であれば、
 ボタンひとつでだれでも使えるようにしました。
 そしてすべての国民が働いて稼いだお金は、
 必ずこの口座に入れるようにしてください。
 そうしたら、この口座の残高はいくら使ってもいつも同じ。
 みんなお金に困らないし、心配もしなくていいでしょう?」


 国民はじっとテレビを見ている。


「それではまた」


 大統領の映像はプツッと途切れた。


 わたしもぼーっと大統領の演説を聞いていた。
 口座をひとつ……。ん? え?


 す、すごい!
 これでお金の不自由はなくなる!
 それどころか、好きなものが何でも買える!
 いや、そ、それどころか、オレは何でもできる!
 なんなんだこの大統領は! すごすぎる!


 さっそくわたしは豪遊する手段を考え始めた。
 まずは車だ! 高級車を買って乗り回そう!
 それから豪邸の建築だ!


 わたしはさっそく高級車ばかりを扱うディーラーに電話を入れた。


「毎度ありがとうございます。高級車専門店カックイーです」


 とりあえずリムジンを3つ、フェラーリを5つ。
 それとベンツを7つぐらい、まとめて送ってくれ。
 いますぐにだ。


「申し訳ございません。
 たったいま、すべてのメーカーが生産を中止しました」


 なんだと? そんなバカな話があるか。なぜだ?


「それが車を作る人、みんな辞めちゃったそうです」


 はあ?
 まあいい。とにかく金はある。
 欲しいだけやるから、いますぐみんな連れ戻してこい。


「ムリですね。
 だって、みんなお金に不自由がなくなったんですよ?
 だから辞めたんですよ」


 なにぃ? じゃあ、なんでおまえはまだ電話番をしているんだ?


「あ、ホンマや。辞めよ。ガチャ」


 お、おい!


 まあいい。
 わたしはすぐに冷静さを取り戻し、次の電話をかけた。


「ありがとうございます。豪邸販売のゴールデンハウスです」


 もしもし。とりあえず庭付きプール付きの一戸建てを4つくれ。
 大盛り、いや大きめのサイズで頼む。
 金に糸目はつけない。


「あー残念。さっきみんな帰りました」


 帰ったあ? 仕事はどうした仕事は!


「仕事しなくてもお金が手に入るようになったんですよ。
 知らないんですか、さっきの大統領の演説」


 知っとるわ! だから豪邸を注文しとるんや!


「注文? 何を偉そうに」

 
 な、なんだその態度は?


「お、いい女。ガチャ」


 おおい!

 わたしは受話器を見つめて考え込んだ。
 落ち着け。
 ここはいったん落ち着いて、そうだ、まず自分が会社を辞めよう。
 そして気分的に優位に立とう。辞めてやるぜあんな会社!


 もしもし、あ、部長ですか。
 お休みのところ携帯にかけちゃってすみませんね。
 それで用件はですね、いきなりですけど、わたし辞めますわ。


「は?」


 だから、辞めてやるってこんな会社!


「え? 会社って何?」


 は?


「いま南の島でバカンス中なんだ。邪魔をしないでくれ。
 まったく、おまえはいつまでたっても邪魔しかできない男だな。
 ガチャ」


 お、おおい! もうバカンス?
 さすがは部長、仕事が早い、などと言っている場合ではない。
 わたしもバカンスだ! 旅行に行こう!


 わたしはさっそく荷造りを開始した。
 えっと、パンツたたんでと……って荷造りまったく必要ない!
 全部現地調達だ!


 わたしは着の身着のままで車に乗り込んだ。


 あたりは恐るべき渋滞である。
 なんでこんなに込んでるんだ……。
 すると隣に並んだドライバーが言った。


「みんな会社辞めて旅行に行く途中らしいですよ」


 あ、そう……。それでこの大混雑?


「飛行機も飛ばなくなったらしくて」


 みんな辞めすぎ。仕事しようよ。


「ガソリンスタンドも閉鎖したみたいでね。みんなガス欠」


 え、これ、動いてないの?


「そう。もう誰も車に乗ってないらしいですわ」


 な、なにぃ? じゃあなんでアンタは車に乗ってるんだ?


「あ、ホンマや。帰ろ」


 お、おい!


 わたしは考えた。
 なぜだ。なぜみんなより一歩遅れているんだ? 


 まあいい。
 一度銀行に行ってみよう。大金を確実に押さえるのだ。


 銀行についたわたしは『みんなの口座』を開いて驚いた。
 すごいなこの口座は。
 一、十、百、千……えっと、千兆の次は何だったっけ?
 とりあえず、五百億ぐらい下ろすか。


 しまった、出しすぎた。
 これはとても持って帰れる量ではない。
 仕方ない、自分の口座に振り込もう。
 いや、自分の口座はもうないんだった。
 ……戻すか? いや、面倒だな。


 わたしは札をポケットに入るだけ突っ込んで、
 札を銀行に撒き散らしたまま家に向かった。
 しかし、どうやって使うんだこの金?
 みんな働いていないし……。


 すると突然、わたしは襟首をつかまれた。


「おい、おっさん、食い物をよこせ。さもないとおまえを食べるぞ」


 ちょ、ちょっと待ってください。け、警察!


「オレが警察だよ。おまえ逮捕」


 お、おおい!


 その頃、テレビでは再び大統領の演説が流れ始めた。


「みなさん! 毎日のお遊び、大変お疲れさまです」


 国民は突然の大統領の演説に耳を傾けた。


「今日わたしが話したいことは、先般の経済政策についてです。
 と言いますのも、わたしはこれまでたくさんの
 経済政策を打ってきましたが、
 この間の経済政策がひさびさの大ヒット! 
 とうとう失業率は99%に達しました!
 目標まで後1%! みんな遊んで暮らしましょう!」
posted by marl at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月15日

神様からのeメール


一.「神様からのeメール」



ある日、わたしの携帯電話に妙なメールが入った。


「件名 あなたの願い叶えます 差出人 神」


……なんだこれ? 神だって?


このようなメールには気をつけるべきである。
返信したが最後、後から高額の請求が来たりだとか、
わけのわからないスケベメールが来たりだとか、
ロクなことがないのは目に見えている。


つまり、即消去である。
そう思った瞬間、新しいメールが入った。


「件名 消去はちょっと待った 差出人 神」


なんだこれ?
タイミングが良すぎる。気持ち悪っ。
しかし、わたしは何となくそのメールを開いてしまった。


「メッセージ
開いてくれたようだね。結構。
あなたはあなたの夢への扉をいま開いたのだ。
さて、これからわたしの出す問題に答えることができれば、
あなたの願うものを何でも手にいれられる方法を教えよう
さあ、どうする?」


……あやしい。やはり消去するしかない。
と思ったらまた次のメールが入った。


「件名 第一問 差出人 神」


……さっそくきやがった。
しかし、第一問と来たら見ずにはいられないのが人間だ。


「メッセージ
あなたは喉が渇いて、どうしようもなく水が飲みたくなった。
でも、あなたが持っているのは塩だけ。
そして、この社会にはお金がない! さあ、どうする?」


なんだこの問題は?
お金がない社会、だって?
そこで喉が渇いたから、塩を使ってどうにかしろ、だって?


わたしは少し考えた。


塩をじっと見てツバを出す。
よし、返信。


しまった!
つい返信してしまった。
こんなえたいの知れないメールに返信してしまって、
悪いことが起きなければいいが……。


しばらくすると、新しいメールが届いた。



「件名 見解 差出人 神」


さっそく回答がきやがった。わたしは恐る恐るそのメールを開いた。


「メッセージ
ツバ、出るか?」


……出ないだろうな。
よし、じゃあこうしよう。
水を持っている人を探そう。そしてこう言うんだ。
この塩と水を交換してください。
返信してやるぜ。


すると数分後、新しいメールが届いた。


「件名 第二問 差出人 神」


……第一問はあれでよかったのか?
まあいい。つぎは第二問だ。わたしはメールを開いた。



「メッセージ
それでは第二問だ。
あなたの呼びかけに一人のデザイナーが現れた。そしてこう言った。
『水は持っているけど、塩はいらないのよね。
蜂蜜となら交換してあげるけど』
 さあ、どうする?」


ほう、なるほど。
わたしが水を飲むためには、蜂蜜を手に入れなきゃならない、
というわけか。


ならばこうだ。
蜂蜜を探しに森に入る。
返信。さあ、どう来る?


間髪入れずに新しいメールが届いた。


「件名 第三問 差出人 神」


「メッセージ
あなたは森へ入った。
そこには森の蜂蜜を牛耳る木こりがいた。あなたは言う。

『わたしは塩を持っています。
よかったら蜂蜜と交換してもらえませんか?』

 すると木こりはこう言った。
『おい小僧。そんなものはいらん。
この蜂蜜がほしければ、娘の喜ぶコアラのぬいぐるみを持ってこい』
さあ、どうする?」


コアラのぬいぐるみ?
つまり、わたしは水を飲むために、
木こりの娘の喜ぶコアラのぬいぐるみを探して蜂蜜と交換する。
その蜂蜜をデザイナーへ届けて水をもらう……。


ちょっと待て。頭を使え。
どこまで行こうが、わたしの持っているものは塩しかない。
塩のほしい人からしか、何かを交換することはできないのだ。
ならば塩のほしい人をまず集めた方がいい。
その中から水か、蜂蜜か、あるいはコアラのぬいぐるみを
持っている人を探せばいい。


宣伝をします。
塩のほしい人いないか?
返信!


新しいメールはすぐに届いた。


「件名 第四問 差出人 神」


「メッセージ
なるほど。いい発想の転換だ。
あなたが宣伝した結果、塩のほしい人が五人集まった。
しかし、水はおろか蜂蜜も
コアラのぬいぐるみも持っているやつはいない。
だが、その中に、
『どうしても塩がほしいから、この犬をやる』
と言って聞かないやつがいた。さあ、どうする?」


犬? 犬ねえ……。そうだな……。
まあ、犬は鼻が利く。
コアラのぬいぐるみはいざ知らず、
蜂蜜なら匂いを嗅がせれば見つけてくるかもしれない。


塩と犬を交換する。
そして森の木こりのところに戻って、
この犬に蜂蜜の匂いを嗅がせろと懇願する。
返信だ!


神様からは相変わらずハイペースで問題が送られてくる。


「件名 第五問 差出人 神」


「メッセージ
『まあいいだろう』
木こりは蜂蜜の入ったビンのふたを開けると、
あなたの犬はクンクンと匂いを嗅いだ。どうやら匂いを覚えた様子だ。
さあ、どうする?」


よしよし、いい子だ。
その調子で蜂蜜を探してくるんだぞ。よし、行ってこい!
わたしは犬をなでた後、勢いよく野に放った!


返信!


神様からのメールは続く。


「件名 第六問 差出人 神」


「メッセージ
あなたは勢いよく犬を放ったが、犬はここぞとばかり逃げ去った。
残ったのは犬をつないでいたヒモだけ。さあ、どうする?」


げ! あいつ!
頼みの犬が逃げてしまった……。
ヒモ? 使えんなあ……。
どうしようか……。
わたしは数分悩んでしまった。


すると神様からメールが届いた。なんだ、催促のメールか?


「件名 ヘルプ 差出人 神」


ヘルプまでしてくれるのか。やけに面倒見のいい神様だ。


「メッセージ
どんなに悪い状況になっても、あきらめてはいけない。
前向きに行動すれば、必ず活路は開けるものだ」


なるほど。励ましてもくれるわけだ。仕方ない。
ヒモのほしい人を探して町を歩きまわるか。
これで返信と。


するとすぐに新しいメールが届いた。


「件名 第七問 差出人 神」


「メッセージ
町を歩くあなたの耳に、大工のおじさんの声が聞こえてきた。
『ヒモほしいなあ。このクギとトンカチと交換してくれないか?』
さあ、どうする?」


……しかし、さっきから一向に水に辿り着く気配がない。
ここは交換するべきかどうか。
もし、ここでヒモを交換してしまったら、
後から水を持っている人がヒモをほしがっている場合に対応できない。
くそっ、どうすればいい……。


わたしはまた十分ほど返信できずにいた。


すると神様からメールが届いた。


「件名 ヘルプ 差出人 神」

来た、ヘルプだ。ここはいい助言を期待しよう。

「メッセージ
あなたは相手のほしいものを持っている。これは強みだ。
これを利用すれば、
あなたのほしいものも手に入りやすいのではないのかね?」


なるほど! さすがにいいこと言うぜ神様!
つまりこうだ。
大工のおやじにこう言うわけ。
オレは水か、蜂蜜か、コアラのぬいぐるみがほしい。
だから、それらを持ってきてくれたら、このヒモと交換してやろう。
返信!


テンポよく神様からのメールは続く。


「件名 見解 差出人 神」


「メッセージ
なるほど。
だが、いまの第七問の回答に点数をつけるとすれば、六十点だ。
なぜだかわかるかね?」


六十点? なぜだろう?
いいアイデアだと思ったが……。
言い方が偉そうだったのか?
わたしはまたまた数分メールを返せずにいた。


すると神様もまたまた助けの手を差し伸べる。


「件名 見解 差出人 神」


「メッセージ
相手の立場になって考えることが大切だ。
たとえば、あなたがさっき大工のおじさんに言ったことを、
逆に言われたとしたら、どんな気持ちになる?」


どんな気持ちだ?
……偉そうに、しかもケチ臭い。
困っているのに助けてくれよ……ぐらいか。


そうか、あまり相手は喜んでいないな……。
むしろヒモを交換してあげて相手を喜ばせつつ、
クギとトンカチを有効に使う方法を考えるべきだな。


……いや、思い切ってヒモをタダであげたらどうだ?
つまり、こういう男前な展開はどうか。


「あ、このヒモですか? もしよかったら、どうぞ使ってください。
差し上げます」
「え? いいの?」
「あどうぞどうぞ」
「助かるわ兄ちゃん! ありがとう! でも、何かお礼を……」
「いえいえ。そんな、いいんですよ」
 と笑顔で対応した後、さりげなくこう言うわけだ。


「……ちょっともののついでにお聞きしたいんですけど」
「おう! 何でも聞いてくれ」
「じつは、水か、蜂蜜か、
コアラのぬいぐるみを探しているんですけど、
どなたかお持ちの方、ご存知ですか?」

こうすれば、大工のおやじは
親身になって協力してくれるにちがいない。
もし望むものが手に入れられなかったとしても、
この大工のおやじは今後わたしの味方になってくれるはず。
よし、この方法で行こうか!
返信!


神様からメールが届いた。


「件名 第八問 差出人 神」

「メッセージ
あなたのその対応で、大工のおじさんはこう答えた。
『ちょっと知り合いにあたってみるわ。
見つかったら連絡するから、兄ちゃんの住所教えといてくれ』
 こうしてあなたはヒモを渡し、大工のおじさんと住所を交換した。
さあ、どうする?」


……どうしよう?
ヒモをタダでやってしまったから、
手持ちがなくなってしまったじゃないか。
大工のおやじの住所なんてどう使えばいい?


よし、町で宣伝をしよう。
大工のおやじの住所を教えますから、
水か、蜂蜜か、コアラのぬいぐるみをください。
返信!


「件名 第九問 差出人 神」


「メッセージ
だれも寄って来ない。
さあ、どうする?」


……見返りを求めている姿勢がよくないのか。
よし、それならこの宣伝でどうだ?
腕のいい大工のおじさん、ご紹介します。
そう、ただ紹介するだけという奥ゆかしさで、
寄ってきたところを仲間にしてしまう。
よし、返信だ!


神様からのメールは続く。


「件名 第十問 差出人 神」


「メッセージ
だれも寄って来ない。
さあ、どうする?」


……うーむ、世間は厳しいな。
仕方ない。
とりあえず、大工のおやじのところに行ってみよう。
こんにちは、おじさん。
この間の件、何か進展はありました?
返信!


しかし、なかなかつきあいのいい神様だ。



「件名 第十一問 差出人 神」


「メッセージ
 おじさんは答えた。
『それが、だれもおらんのや。ごめんな兄ちゃん……』
さあ、どうする?」


……ダメだ。
急に問題が難しくなった。
この壁を乗り越えるにはどうしたらいいんだ?
水だ。とにかく水をくれ。


こうなったらなりふりなんて構わんぞ。
クギとトンカチを大工のおやじから借りよう。
そして、とにかく必要な所にクギを打とう。
だから水を、もしくは蜂蜜か、コアラのぬいぐるみをくれ。頼む!
返信!


「件名 第十二問 差出人 神」


「メッセージ
だが、道行く人々は口々にこう囁いた。
『クギ打ちは、もうこの町には必要ない』
『水をもらおうなんて、甘いわな』
さあ、どうする?」


……絶対あきらめないぞ。
いや、いいクギを打ちますよ。いい音出ますよ。
もっと言えば、クギを打った後、このトンカチで肩も叩きますよ。
効きますよ。だから水をください。お願いします!
返信!


「件名 第十三問 差出人 神」


「メッセージ
『肩叩き? そんなものは間に合ってる』
さあ、どうする?」


……だめだ。
オイラ、ここで干からびて死ぬんかな?
ああ、いまから思えば何もできなかったし。
失敗ばかりのつまらない人生だったな。


……でも、悪いことばかりでもなかったかな?
これまで会ってきたみんな、元気にしてるかな?
思えばそれなりにいい人生だったのかもな。
あ〜あ、なんかつまんねえ……。


神様からメールが届いた。


「件名 まあまあそう落ち込まずに 差出人 神」


「メッセージ
人生なんて失敗だらけやで。
そやけど失敗はな、チャレンジした証拠なんや。
もっと言うたら、失敗かどうかもアンタ次第や。
失敗やおもとることも失敗やない。
おまえさんの夢を叶えるための単なる通過点や。
悪いことばかりの人生やないし、みんなもきっと元気にしとる。
ほーら、さっきの犬も戻してやるから。
コラ! しっかりせい!」

……なんかむかつくんですけど。
ま、そうだな。よし、もう一度やってみるか。
肩の力を抜いて、いったんリラックスだ。


犬が帰ってきたな。
せっかく戻ってきてくれたし、名前をつけるか


よし、おまえの名前はチャンス!
オレにチャンスを運んで来い! 頼むぜ!
……ついでに犬小屋も作ってあげたりしてね。



ん? 犬小屋! そうだ!
大工のおやじに協力してもらおう。
きっと協力してくれるはずだ。


材料はどうする? あ、そうか。
森に住む木こりのおやじに、木を分けてもらおう。
どうやって?
木こりのおやじを喜ばせてあげたらいいわけだ。


どうしたら喜ぶ?


お! これどうだ?
デザイナーの人がいただろ?
あの人にも協力を依頼して、
お洒落な犬小屋をデザインしてもらう。 
そうしてみんなでいい感じの犬小屋を作る。
そうしたらみんな喜んでみんな味方になってくれる!
チャンス、おぬし、なかなかやる!
もうちょっとしたら、いい犬小屋作ってやるから待ってろよ。
これで返信!


神様からのメールが届いた。


「件名 ワハハー 差出人 神」


「メッセージ
 そのような創意工夫、仲間との協力、
そしてあなた自身から発する喜びの感情。
それらはすべてあなたの夢を叶える大切なツールなのだ。


 あなたのプロデュースした犬小屋で、
 デザイナー、木こりの親子、大工のおじさん、チャンス、
みんなが喜んだ。


あなたはこの物語で関係するすべての人を喜ばせた。
 それどころか、犬小屋の評判を聞いた多くの人が、
 あなたと仲間が作る犬小屋を求めてやってきたのだ!


 あなたは大勢の中の一人からコアラのぬいぐるみを譲ってもらい、
 木こりの娘さんにプレゼントした。
娘さんはさらに大喜びだ。
そんな娘さんの姿を見て、
木こりのおじさんは本当に感謝して蜂蜜を山ほど分けてくれた。
その蜂蜜をデザイナーにも山ほど差し出したあなたは、
とうとう水を手に入れたのだ」


お、やった! やったぞ!
喉渇いて死にそうだったからな! ほんとに苦労したぜ。
いったいどれくらい時間がかかったんだ? まったく。


「延べ五日」


……死んでるんじゃないのか? まあいいか……。


とにかく、ありがとう神様。
わたしは返信した。


「件名 第一問 差出人 神」


あれ? 第一問?
また最初からやるの?
わたしはメールを開いた。


「メッセージ
 夢を叶える法則がわかったかね?」


え? 夢を叶える法則?


「件名 第一問 ヘルプ 差出人 神」


「メッセージ
 ひとつめの問題演習は終わった。
次は、あなたの本当の人生をどうするかだ。
あなたは夢を叶える法則をさきほどの演習で学んだはずだが?」


夢を叶える法則?
あれ、どんな法則だっけ?


「件名 第一問 ヘルプ 差出人 神」


「メッセージ
さきほどからのメールを読み返してみたまえ。
あなたが水を飲めたとき、
すなわち、願いを叶えたとき、まわりの人の願いはどうなっていた?」


まわりの人の願いは……、叶っているよね。
そうか、自分だけ願いを叶えることはできない、ってことか……。
みんなの願いをつなぎあわせたとき、みんなの願いが同時に叶う。
そういうことか!
返信!


「件名 第二問 差出人 神」


「メッセージ
なかなかすばらしい答えだ。わたしならこう言おう。
夢を叶える法則。それは、
相手の願いを叶えてあげなさい、ということだ。
わかったかな?


おお、なるほど。なかなかステキな話じゃないか。
わたしは夢を叶える法則を身につけた気がした。


「件名 わたしの夢について 差出人 神」


ん? 神様にも夢があるのか?


「メッセージ
最後にひとつ。
わたしの夢。それは、
あなたがすばらしい人生を送ってくれることなのだ。
あなたなら、わたしの願いを叶えてくれると確信しているよ。
それでは元気で。サイナラ」


あれ? いきなりサイナラ?
ちょ、ちょっと待てよ!
返信! 返信!


しかし、これ以上、神様からの返事は来なかった。
わたしは意外にも淋しくなった。


……しかし、わたしには神様とやりとりしたメールが残っている。
これはなかなかいい。
神様からの教えのとおり、
多くの人を喜ばせて、みんなでみんなの夢を叶える。
これができたら、ちょっと男前だぞ。
そして神様が夢と言ってくれた、すばらしい人生をわたしは送るのだ。
そう考えると、悪くないな、人生。
……神様、ありがと。



この経験をしてから一年後、わたしの夢は決まった。
わたしが神様から大切なことを教えてもらったように、
未来の自分から過去の自分へeメールが打てる仕組みを作ろう、
と決めたのだ。


なぜそう決めたのか。
未来の自分からのアドバイスは、
あのときの神様からのアドバイスのように、
だれにとっても人生の大きな財産になるだろうと考えたからである。
つまり、「よりよい人生を送るための指針がほしい」という
みんなの願いを叶えるのだ。


そうしてわたしはあのときの演習問題のように、
たくさんの人に助けられながら、たくさんの困難を乗り越えて、
ようやくその試作品を完成させた。
気がつけば二十年の月日が流れていた。


ちょっと待てよ……。
この試作品は当然テストをしないといけない。
つまり、わたしは過去のわたしにeメールを送るのか?
どんなeメールを送る?


しばらく考えたわたしは、
eメールのタイトルと差出人の名前をこのように作成した。


「件名 あなたの願い叶えます 差出人 神」


わたしはこれから過去の若いわたしを激励し、
すばらしい人生を送るアドバイスをしようと思う。
それは昔、神と名乗る未来の自分からeメールで受けたアドバイスだ。
差出人が神とはおこがましい話だが、
若い頃のわたしにインパクトを与えるには
これぐらいの荒療治が必要だ。


わたしは声を大にして若い頃の自分に言おう。
夢は叶えることができるんだ、ということを。


【効能】 夢と希望を忘れた心
posted by marl at 02:18| Comment(0) | TrackBack(1) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月18日

空でうたたね物語 目次

空でうたたね物語


その1.「じゃんけん三国志」
不思議な三国動乱の時代に生を受けたあなた。
どんな失敗をしても知恵と体力を振り絞って生き抜く!


その2.「はじまりのはじまり」
あなたはすべてを知り、宇宙を作る神になる。
そんなあなたがただひとつ知らなかったこと。その答えがわかるかな?


その3.「祈って走って」
祈り続けるあなたの横をずっと走り続ける男。
その男の意外な過去にあなたはどんな未来を描く?


その4.「未来からの使者」
科学技術の粋を駆使して未来からやってきたあなた。
人類の科学文明をこきおろした挙句の結末は?


その5.「蝸牛の気持ち」
あなたはほかの生物へと進化したい一匹のカタツムリ。
そんなあなたに隣の友は大切なことを語るが……。


その6.「天国か地獄か」
あなたは地獄の閻魔のもとにやってきた。
判決を待つあなたに閻魔が告げた真実は意外なものだった?


その7.「教えてください」
世界で苦しむ人々を救う先生に弟子入りしたあなた。
先生は奥ゆかしくあなたを導いているようだが……。


その8.「悪気はなかった」
見つけたものは燃えて死す?
そんな伝説をも怖れずに鬼を探そうと挑むのは、
あなたが生み出した人間だった!


その9.「八番目の大賢者」
王国の治安悪化に奮闘するあなたの前に現れたのは伝説の大賢者。
いったいどんな策を繰り出すのか?


その10.「預言者はどっちだ」
この地から争いをなくすために、三百年に一度現れるふたりの預言者。
あなたは世界を平和にできるか?
posted by marl at 22:23| Comment(2) | TrackBack(2) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

預言者はどっちだ

1.預言者ふたり現る


ある国に、預言者と呼ばれる者が二人現れた。


ひとりは国の東側で多くの民衆の支持を受け、
「イースト」と呼ばれた。


もうひとりは国の西側で同様に名を馳せ、
「ウェスト」と呼ばれた。


イーストとウェスト、どちらが本当の預言者なのか。
世論はまっぷたつに割れた。


その噂は、国王の耳にも届いた。
国王も、どちらが本物なのか疑問を持った。


「二人を闘技場に呼べ」


国王は二人を大きな闘技場に呼び寄せ、
多くの民衆の前で議論をさせようとした。

 
決戦が始まった。


まずイーストは、闘技場を埋め尽くす民衆に向かって問いかけた。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「そして、その争いに勝った者が子孫を残してきた」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、争ったやつらの子孫であり、
 争いを好む遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は争いだらけになるだろう!」


「やっぱりそうかあ!」 


これをじっと聞いていたウェスト。
しばらくして、闘技場の中央で叫んだ。


「果たしてそうだろうか!」


 そして、闘技場の民衆に問いかけた。


「たしかに、人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「そんなやつらはまちがいなく早死にする」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、争わなかったやつらの子孫であり、
 争いを好まない遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は平和で充たされるだろう!」


「な、なるほど〜」


闘技場の民衆は、東側も西側も一斉にウェストを支持した。
イーストも思わず言った。


「なるほど〜」


ウェストは勝ち誇ったように言った。


「やっとわかったか。この偽預言者め。
 おまえのような思想を持つ者を生かしておくと、
 この国の将来に禍根を残すであろう」


そう言うやいなや、
ウェストは腰の剣を勢いよく抜いたかと思うと、
あっという間にイーストをまっぷたつに斬り下げた。


ウェストは剣を高く掲げて叫んだ。


「平和の世がきたれり!」


国王は言った。


「あっぱれウェスト。
 なんじこそ、偽の預言者から国を守った英雄じゃ!」


名声を上げたウェストは、国王の側近として登用された。


しかし数年後、権力を握ったウェストは国王を追放、
自ら王となりウェスト王国を建国、
その親族は権力を独占し、栄華をきわめた。


しかしさらに数十年後、ウェスト王は暗殺され、
子孫は血で血を洗う権力争いを繰り広げた。


そこへ北のノース帝国が、
内乱に乗じてウェスト王国に攻め込んだ。
あっけなく国は滅び、ウェストの一族は滅亡した。


そして時代は過ぎ、ひとときの平和が訪れた。


人々の間では、議論が絶えなかった。
イーストとウェスト、いったいどっちが正しかったんだろう? 


ウェストさ。
ウェストの一族は争いが好きだったんだ。
だからウェストの一族は早死にした。
そしていまの平和がある。
つまり、ウェストは身をもって持論を証明したのだ。


いや、イーストさ。
ウェストはたしかに争い好きで滅びたが、
天下を制して生き残ったのは、
これまた争いで勝ったノース帝だ。
結局、争いを好む者が最後には生き残るのさ。


こんな議論だけなら良かったが、やがて人々は、
どちらを支持するかという意見の対立から、
お互いを憎しみ合い、命を奪い合う激しい争いをまた始めてしまった。


そこにひとり、今度は未来を予言する者が現れた。


「あの預言者たちが現れてから三百年後、真の預言者が現れる。
 その者はこの地の混乱を鎮め、世界に真の平和を築くであろう」


そう言ったこの男は、
自分の信念を貫いて様々な予言を行ったが、
当時の社会に影響をおよぼすようになったため、
ノース帝の命で抹殺された。




2.預言者再び現る


そして三百年の時がすぎた。
そして予言は的中した。


この地に再び、預言者と呼ばれる者が現れたのである。
しかも、また二人であった。


ひとりは国の東側で多くの民衆の支持を受け、
「イーストの再来」と呼ばれた。


もうひとりは国の西側で同様に名を馳せ、
「ウェストの再来」と呼ばれた。


どちらが本当の預言者なのか。
世論は三百年前と同様、またまっぷたつに割れた。


その噂は、三百年前と同様、国王の耳にも届いた。
国王もどちらが本物なのか疑問を持った。


「二人を闘技場に呼べ」


国王は、三百年前と同様、二人を大きな闘技場に呼び寄せ、
多くの民衆の前で議論をさせようとした。


そして再び、決戦が始まった。


まずイーストの再来は、
闘技場を埋め尽くす民衆に向かって問いかけた。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「その争いを生き残ったやつらは、
 争うときには争って勝ち、平和なときには平和に暮らした。
 だから生き延びたのだ」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、したたかな遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来はせちがらく、住みにくい世になるだろう!」


「やっぱりそうかあ!」


これをじっと聞いていたウェストの再来。
しばらくして、闘技場の中央で叫んだ。


「果たしてそうだろうか!」


そして、闘技場の民衆に問いかけた。


「これまでの戦乱で、多くの人々が死んだ。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「死んだやつらは、争いを好むやつもいれば、
 平和を好むやつもいた。共通するのは、不運だったということだ」


「そうだそうだ」


「ゆえに生き残ったわたしたちは、幸運な遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は幸運に包まれるだろう!」


「な、なるほど〜」


闘技場は、東側も西側も、一斉にウェストの再来を支持した。
イーストの再来は言った。


「こ、これはもしや後攻が有利なのでは?」


ウェストの再来は勝ち誇って言った。


「やっとわかったか。この偽預言者め。
 おまえのような思想を持つ者を生かしておくと、
 この国の将来に禍根を残すであろう」


そう言うやいなや、
ウェストの再来は腰の剣を勢いよく抜いたかと思うと、
あっという間にイーストの再来をまっぷたつに斬り下げた。


と思ったつぎの瞬間、
剣は高い音を響かせてまっぷたつに折れ、空高く舞い上がった。
イーストの再来は言った。


「こんなこともあろうかと、服の下に鎧を着ておいたのだ」


「なんと、したたかなやつ……」


そして折れて舞い上がった剣は、ウェストの再来の頭に落ちてきた。


「なんと、不運なやつ……」


イーストの再来は鎧を脱ぎ、それを高く掲げて叫んだ。


「せちがらい世がきたれり!」


「な、なるほど〜」


闘技場は、東側も西側も、今度は一斉にイーストの再来を支持した。


国王は言った。


「あっぱれイーストの再来。
 なんじこそ、偽の預言者から国を守った英雄じゃ!」


名声を上げたイーストの再来は、国王の側近として登用された。


しかし数年後、イーストの再来は国王をしたたかに追放、
自ら王となりイースト再来王国を建国、
その親族は権力を独占し、栄華をきわめた。


しかしさらに数十年後、
イーストの再来はせちがらく暗殺され、
子孫は血で血を洗う権力争いを繰り広げた。


そこへ南のサウス王国が、
内乱に乗じてイースト再来王国へしたたかに攻め込んだ。
あっけなく国は滅び、イーストの再来の一族は滅亡した。


そして時代は過ぎ、ひとときの平和が訪れた。


人々の間では、議論が絶えなかった。
イーストの再来とウェストの再来、
いったいどっちが正しかったんだろう?


ウェストの再来さ。
ウェストの再来は、とにかく運がなかったよ。
だから、折れた剣が自分の頭に刺さって死んでしまった。
つまり、ウェストの再来は身をもって持論を証明したのだ。


いや、イーストの再来さ。
ウェストの再来はたしかに不運だったが、
イーストの再来が幸運だったわけではない。
したたかに鎧を着こんでいたから助かったのだ。
そして結局、したたかなサウス王が国を取った。
結局、したたかなやつが最後には生き残るのさ。


こんな議論だけなら良かったが、
やがて人々は、どちらを支持するかという意見の対立から、
お互いを憎しみ合い、命を奪い合う激しい争いをまた始めてしまった。


そこにひとり、また未来を予言する者が現れた。


「あの預言者たちが現れてから三百年後、真の預言者が現れる。
その者はこの地の混乱を鎮め、世界に真の平和を築くであろう」


そう言ったこの男は、自分の信念を貫いて様々な予言を行ったが、
当時の社会に影響をおよぼすようになったため、
サウス王の命で抹殺された。




3.預言者三度現る


そしてまた、三百年の時がたったのである。


この地には新しい王がいる。


「そろそろ預言者が現れる年だな」


国王は側近であるわたしにふとつぶやいた。


でも、預言者って何なのですか? わたしにはよくわかりません。


すると国王はニカッと笑った。


「言葉でな、すべての人々を幸せにする者を、預言者というのだ」


そんなことができますか?


「それができたら、奇跡だな。
 ゆえに預言者とは、神から言葉をあたえられた者、という意味なんだ。
 でも、もしそんな言葉があるとすれば、探してみたいとは思わないか?」


探す、のですか?


「そう。どんな言葉も文字の組み合わせで表現できる。
 そうすると、世界を幸せに導く言葉は、案外あるかもしれんぞ。
 みんなが発見していないだけで」


なるほど。それはおもしろい考え方ですね。


「だろう? まあ言ってみれば、眠る魔法だよ。
 魔法の呪文が、数十文字の無限の組み合わせの中に眠っているのさ。
 その呪文を見つけ出して唱えさえすれば、世界が変わる。
 その綴り方を知っているのが、預言者なのさ」


でもわたしには、むしろ逆のように思えてなりません。


「?」


だって国王、この地には、
古くから預言者と呼ばれた者が四人も現れましたよ。
しかし彼らは、すべての人々を幸せにすることは
できなかったと言っていいでしょう。


「……」


それどころか、自分の信じる預言者が正しい、
優れていると、人々は争いを始めました。
意見のちがいはちがいとして、
お互いを認め合って暮らすことができなかったのです。


「みんな仲よくせなアカンな」


しかしながら、彼らの説くところはどれも一理あるものばかりでした。
いったいだれが正しかったのでしょう?


国王は少し考えた後、言った。


「みんな正しいことを言ったのかもしれんな。よし」


突然国王は、眉間にしわを寄せて胸をはり、
威風堂々たる預言者のポーズを取った。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


わたしは国王のこういう遊び心が大好きである。
わたしはニヤリと笑って囃し立てた。


そうだそうだ!


「なぜ争ってきたのか。それは、いろんな種類の人間がいるからだ」


そうだそうだ!


「幸運な者あれば不運な者あり。
 したたかな者あれば素直な者あり。
 争いを好む者あれば平和を望む者あり。そうだろう?」


そうだそうだ!


「ゆえに歴史は、繰り返しの遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は過去の繰り返しとなるだろう!」


な、なるほど! やっぱりそうかあ〜!


「……よし、つぎはおまえさんの番だ」


は? わたしが?


「バカモン。この地は古来より預言者が二人ずつ現れる。
 二人目をやらんか」


いや、それは無理です。何しろ本番に弱い。


「何が本番だ。こういうのを茶番というんだ。適当にやってみな」


さらに国王は釘を刺した。


「わかっているだろうが、この預言者対決は、
 まったく正反対の意見を言わなきゃならんぞ。
 それでいて、説得力がないといかん」


……はあ、では、まあひとつ。


「お」


わたしは頭をかきながら、弱々しく預言者のポーズを取った。


人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?


国王はとても楽しそうだ。


「そうだそうだ」


なぜ争ってきたのか。それは、いろんな種類の人間がいるからだ。


「そうだそうだ」


だがそいつらはみんな、海から生まれ、陸に上がり、
気の遠くなるような年月をかけて、
人間へと進化したものばかりだ。そうだろう?


「そうだそうだ」


ゆえに歴史も、進化する遺伝子を持っている。
そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
未来はより良いものへと必ず進化するであろう!


「……なるほど。まあまあだな」


……まあまあ、ですか? 


「まあひょっとすると、また預言者が現れるかもしれんな。
 そのときは、闘技場に人を集めてみようか」


そしてその日から数ヵ月後のことである。


国中に噂が駆け巡った。
なんとこの地にまたまた、
預言者と呼ばれる者が二人現れた、というのである。


わたしは王の間のドアをバンッと跳ね開けて中に駆け込んだ。


国王! 予言が的中しました!
現れたそうです! 本当に、預言者が現れました!


鼻毛を切っていた国王は、ニヤニヤしながら言った。


「きよったか?」


はい! しかも聞いてください。
ひとりは国の東側で多くの民衆の支持を受け、
『イーストの再々来』と呼ばれているそうです!


「そしてもうひとりは、国の西側で同様に名を馳せ、
『ウェストの再々来』と呼ばれているのだろう?」


そのとおりです。よくご存知で。


「それぐらいわかるわ」


国王は片方の鼻の穴を親指で押さえて、
フンと勢いよく鼻毛を飛ばした。


わたしは急かすように言った。


もちろん、呼ぶのでしょう? 慣例に倣って闘技場に。


すると国王は不敵な笑みを浮かべながらわたしに言った。


「おいおい、
『歴史は、進化する遺伝子を持っている』と言ったのは、おまえさんだろう?
 慣例に倣えば、それは進化ではない。繰り返しじゃないか」


ええ? それでは呼ばないのですか?


「……フッフッフ、今度の日曜日、闘技場だ」


呼ぶのですね。やった!
わたしは声を弾ませた。ワクワクしますね?


「そうだな」


国王はニタニタ笑っている。


「それがな」


国王はいたずら小僧のように目を輝かせて言った。


「じつは預言者は、ひとりしかいなかったんだ」


え? そうなんですか?


「最初にひとり、国の東側で噂になった人物がいたんだ。
 けれど、そのひとりだけだったんだ」


でも、わたしは二人いると聞きましたよ?


「そうだろう。だから仕方なく噂を流したのさ。ワシが」


ええ? どういうことですか?


「ウェストの再々来は、おまえがやれ」


げ、げええ!


「心配ない。
 おまえさんはなかなかいい言葉を持っていると思うよ。
 来週の日曜日、世界に魔法をかけてみないか?」


そ、そんな、できませんよ!


「大丈夫。歴史的には有利な後攻だ。
 まあ危なくなったら助けにいくからさ」


国王は、ニカッと笑った。


翌日、国王はなかば強引に国中へ発令を出した。


「二人を闘技場に呼べ」




そして運命の日曜日。三度目の決戦が始まった。


イーストの再々来と呼ばれる男は、
過去の対決から学んだのか、頭の先からつま先まで全身を鎧で固めていた。


そんなに防備を固めなくてもいいのに……。
よほど警戒しているな。
ウェストの再々来、すなわちわたしはそう思いながら、
イーストの再々来と対峙した。


「さあ、そろそろ行こうか? ウェストの末裔さん」





イーストの再々来は不敵にわたしに語りかけた。
この余裕……。わたしは背筋に戦慄が走るのを覚えた。


そして、民衆に埋め尽くされた闘技場の真ん中で、
イーストの再々来はその戦いの火蓋を切った。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「なぜ争ってきたのか。
 それは、人間が生きるために足りないものを
 獲得しなければならない動物だからだ」


「そうだそうだ」


「その争いを繰り返すことで、わたしたちは進化をしてきた。
そうやっていままで生き延びてきたのだ」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、争いながら進化する遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は争いと進化を繰り返すことになるだろう!」


「やっぱりそうかあ!」


「すなわち、世界に平和は来ない!」


イーストの再々来は力強く断言した。


これをじっと聞いていたウェストの再々来、すなわちわたし。


どうしよう。世界に平和は来ないだって?


たしかにアンタの言うことはまったくそのとおりだ。
人類の歴史上、平和が来た試しはないよ。
でも、だから何なんだ。
人々を幸せにしなけりゃ、世界を平和にしなけりゃ、
預言者とは言えないんだぞ。


わたしは腹をくくって、闘技場の中央で語り始めた。


たしかにそうかもしれない。

けれど、わたしたちがほしいと思うものは、
何もお金や食べものだけではないよね?
エネルギーや領土だけではないよね?


「……」


平和は、ほしくないかい?


「……」


闘技場は静かになった。


なぜ争いを繰り返すのだろう?


それはたしかに、
必要なものが足りていないと思っているからなんだ。
だからみんな、不安になって争い、それが原因で憎しみあってきた。


「……」


だから本当は、耳を澄ましてお互いに何が足りないのか
よく聞かなきゃならないのに、
みんな自分の主張ばかりを通して、人の話を聞こうとしないんだ。
そして逆に、自分の話を聞かない連中を不要なものとして排除しようとする。


「……」


そうやって世界はずっと争いを続けてきて、
傷つけあい、憎しみあってきた。
けれど、もうその争いも限界まできてしまった。
もうわたしたちはケンカをやめなければ、
生きることさえできなくなる。


「……」


だからわたしたちは、あらゆる足りないものを、
奪いあうのではなくて、補いあう必要があるんだ。


「……」


もし、わたしたちが本当に平和を必要とするならば、
わたしたちはいままでとはちがう、新しい進化を始める。


わたしたちは争うことをやめて、
平和を得るために、お互いに耳を澄まし始める。
相手の言うことを耳で聞こうとする。
そして理解しあい、充たしあう。


「……」


すると、平和がきっとやってくる。
いつかきっと、そう思うんだ。


みんな聞こえているかい?
オレはそう思うんだ!
だってみんな、みんな仲間やないか!


闘技場を静寂が包んだ。


……だめか?


しばらくの沈黙の後、闘技場が静かに揺れ始めた。


「……そうだ」


「……そうだよ」


「そうだそうだ!」


「な、なるほど〜」


そして闘技場は、東側も西側も、一斉にわたしを支持してくれた。
あ、やった……。やった!
わたしは割れんばかりの大歓声に包まれた。


そこへ静かに声をかけたのは、イーストの再々来だった。


「耳を澄ましても、みんな文句ばっかりかもしれんぞ?」


え? その声は?
イーストの再々来は兜を脱ぎ始めた。
すると兜から出てきたものは、見たことのあるだれかの顔だった。


こ、国王!


「まったく、おまえさんには負けるよ」


国王はニカッと笑った。


わたしは国王の笑顔を見ると涙があふれてきた。
そしてついには、国王に抱きついて泣いたのだった。



預言者はどっちだ 終
posted by marl at 22:13| Comment(1) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月05日

八番目の大賢者

1.賢者募集のお触れ書き


「……足りない」


唇をへの字にした宰相は、
席を立っては落ち着かなく部屋を歩き、
また座っては頭を抱えた。
これはきっと性格である。


「……牢屋が」


 そこへひとりの衛兵がやってきた。


「またです宰相。今日も百人ほど引っ張られてきました。
 もういっぱいで入れませんよ?」


「……またか」


「まったく、最近は犯罪が増える一方ですね」


「おまえさんはこの原因を何だと思う?」


「やはり、国王が出張で留守だからではないでしょうか?」


「……やはりそう思うか?」


「はい」


なるほど。この国の王はいま留守なのか。
それで悪いことをする連中が増えている、というわけだ。


宰相は腕組みをしてため息をついた。


「まったく、民衆というものは難しい。
 ちょっと王がいなくなるとすぐこれだ。
 いっそのこと、刑をうんと厳しくするかね?」


「入れる牢屋がありませんよ。刑を厳しくする前に、牢屋を増やしていただかないと」


「増やそうにも資金がないのだよ」


「じゃあ逆に刑期をうんと短くして、回転率を上げたらどうでしょう?」


「どれぐらいにするのだ?」


「思い切って、五時間」


「却下だ。短すぎる」


「いや、その五時間を狭い部屋に立ちっ放しにするんです。
 意外に苦痛で、場所も取らない。
 受刑待ちもすぐ解消されますよ?」


なかなかいいアイデアじゃないか。
けれど、宰相は相変わらずのしかめ面だ。


「だめだめ。
 そんなことをしたら悪いことをするやつがどっと増える。
 せっかく回転率を上げた牢屋も行列のできる店のようになる。
 そうなったらどうするね?」


「店舗を増やします」


「……何の店だね?」


「そうだ。最近、王子が勉強をしていると聞きます。
 何かいい方法を考えてくれるかもしれませんよ?」


宰相は首をかしげながらわたしを見た。


「王子、さっきから黙っていますが、
 何かいい方法はありますかの?」


なるほど。わたしは王子ということらしい。


よし、こうなったら悪人を一網打尽にして、
この国をよくしようじゃないか。
わたしは無邪気にそう言った。


「だから、どうやって?」


こういうことは賢い人に聞くべきである。
ちょっと紙と墨を持ってきてくれないか?


「紙と墨、ですか? わかりました」


衛兵が紙と墨を持ってくると、
わたしはさらさらとお触れを書いた。


最近、王国で悪いことをする人たちが増えている。
だから、悪い人たちを一網打尽にする方法を募集する。
うまくいったらお礼する。


これでよし!


「これでよしって、何ですこれは?」


お触れである。これ、城門に張っておいて。
すると宰相は噴き出した。


「王子。失礼ながら、こんなものが通用するとお思いですか?」


まあ、何事もやってみないとわからないのである。




2.大賢者の登場

 
果たして二日後。


城にある男が現れた。衛兵が報告にやってきた。


「王子! 現れました!
 悪人を残らず退治できる方法を知っているとのことです」


やっぱり世間は広い。


「ハチバンと名乗っております」


「な、何ですとおお?」


宰相はあわてて聞き返した。だれだハチバンって?


「王子!
 もし本物であれば、われわれは大変ついていますよ。
 ハチバンというのは、伝説の大賢者です」


変な名前だな。


「そうなんです。
 由来はずいぶん昔にさかのぼりますが、
 西洋に七賢人と呼ばれる賢い人たちがいました。
 東洋でも七賢と呼ばれる賢い人たちがいました。

 その西洋と東洋の賢者十四人を教えたのはひとりの大賢者だった、
 というウソみたいな伝説があるのです。

 それが『八番目の大賢者』。

 そして、その血を継ぐ賢者のことを、
 八番目の大賢者の末裔ということで、
 ハチバンと呼ぶようになったのです。

 そのハチバンが、わが城に訪れてくださったのですよ!」


面白い展開になってきたぞ。じゃあ、さっそく来てもらおうか。


「わ、わかりました!」


衛兵は大きな体を揺すりながらハチバンを呼びに戻った。


しばらくして、衛兵は杖をつきながら歩く
背の曲がった小柄なじいさんを連れてきた。


おじいちゃんがハチバンさん?


「はあ。そうですのじゃあ」


わざわざ来てくれてありがとう。


「ふぉっふぉっふぉ」


すごい賢者なんだって?


「そうでもないがの」


宰相は微笑んでハチバンを迎え入れた。


「よく来てくださいました。
 ご謙遜なさらずともよいですよ。
 ハチバンの伝説はよく聞いております。
 これほど力強いことはございません。
 どうかあなたの偉大な知恵をお借りしたいのです」


わたしはハチバンに説明した。


張り紙にも書いたけれど、
最近悪いことをする人が増えているんだ。


「はあ」


でもやっぱりわたしは、この国をいい国にしたいと考えている。


「へえ」


そのためには、悪いことをする人を捕らえなければならない。


「はあ」


だけど、すべての悪人を捕らえるのは不可能だ、と思う。


「へえ」


そこで教えてほしいんだ。どうしたらいいと思う?


「……ご意見、ごもっともじゃ。
 しかしながらのう、すべての悪人を捕まえる必要はござらん」


というと?


「この国で最も悪い者を捕らえればよいのじゃ。
 そうすれば悪いことをしようとする者も、
 次第にその心を失っていくものじゃ」


なるほど!
つまり、悪の親玉を封じ込めればいいわけだ。


しかし、どうしたら悪の親玉を捕まえることができるのか?
宰相も口を挟んだ。


「そうです。もしできるなら、
 見つけ出してひっつかまえてきてほしいものです」


「心得ておる」


自信のありそうなハチバンに対して、宰相は続けて言った。


「ただし、悪の親玉の決定方法は、
 誰が聞いても納得のいくものでなくてはなりませぬ。
 決定方法は、賢者であるハチバン殿に任せようと思いますが、
 いかがでしょうか?」


「承知いたした。すでに名案があるわい」


「ほう。どんな案ですか?」


ハチバンは説明した。


「まずこの国の者に、
 こいつは最悪だと思う者の名を挙げてもらうんじゃ」


「ほう」


「そうして名前が挙がったすべての悪人に、
 だれが最悪か、その名前を挙げてもらうんじゃ」


「な、なるほど!
 世間の名だたる悪人に、だれが最悪かを聞くのですな。
 すると悪人中の悪人がわかる! これは名案じゃ!」


「まずは五日ほど時間がかかる。よろしいかの?」


こうしてハチバンは、悪の親玉を捕まえるべく、
国内をヨタヨタと歩きまわった。




3.一網打尽の計


五日後、わたしたちとハチバンは再び会った。


「これはこれはハチバン殿。調査の方はどうでしたか?」


宰相が尋ねると、ハチバンは力強く何度もうなずいた。


「やはり、思ったとおりじゃの」


わたしは思わず身を乗り出して尋ねた。
で、最悪の男はいったいだれだったの?


「国中の者に聞いたところ、
 たくさんの悪人の名が挙がりおった」


うん。


「その悪人たちに、だれが最悪と思うか聞いたのじゃ」


そ、そうしたら?


「そうしたらみんな、『おれが最悪だ』と言ってはばからん」


……ええ?


「しかしご心配あるな。
 ここからが本領発揮じゃ。
 すでに悪人どもを一網打尽にする手を打ってある」


ええ? どんな手?


「今回名前の挙がった悪人どもを集結させ、
 悪事の限りを尽くさせて闘わせるのじゃ。

 生き残った者はまちがいなく最悪。
 ゆえに、これを捕らえればよい。
 ほかの悪人は、この闘いで討ち死にする。
 つまり、国内に悪人はいなくなる。
 これぞ一石二鳥どころか、一石万鳥の妙案というものじゃ」


「おお! すごい! さすがは世界一の賢者殿!」


宰相は感嘆した。悪人を一網打尽!
恐るべき計略である。


「三日後じゃ。闘技場に召集をかけておる」


「わかりましたぞ!」


こうして宰相とわたしは
期待に胸を膨らませて三日間待ったのである。


そして運命の三日後。


「だれも来ないじゃないか」

「よく考えたら、約束を守るような連中ではありません」

「ハチバンはどうした?」

「来てません」

「あいつが最悪かもしれんな……」




4.逆転の発想


一週間後、わたしは宰相の執務室を訪れた。


宰相は机に積まれた書類の向こうから顔を出した。


「あら珍しい。どうしたのですか?
 王子からわたしに会いにくるなんて」


この間の悪人退治の件である。


「ああ、あの大失敗した件ですな。
 よく考えたら、そんなにうまくいくはずはありませんな」


いやいや、失敗は成功のもとである。
ちょっと考え方を変えてみようと思ってね。


宰相は書類に印を押すと、
いったん仕事を切り上げてわたしの話に耳を傾けた。


「と、言いますと?」


要するに、この世界に住むみんなが幸せに暮らせればいいんだろ?


「なんと! 王子も万民の幸福を考えるようになりましたか。
 そうです。そのためにわたしたちはいろいろと政策を考えているのです」


そうなるためには、悪い人が減ればいいのさ。


「……何かこの間といっしょじゃありませんか?」


ここからがちがうのである。
わたしは胸を張って言った。


今度は、悪人を退治するんじゃなくて、善人を増やしたらどうだい?


「ほう。逆転の発想ですな」


宰相はニヤニヤしながらも、感心したような表情を見せた。


「それでどうやって増やします?」


教育である。教育が大切だと思う。


「へ? 教育?」


宰相はしばらく開いた口がふさがらなかった。


「どうしたんです?
 あの勉強嫌いの王子が教育を考えるとは?
 熱でもあるんですか?」


宰相はわたしと自分のおでこに手を当てて比べてみたが、
わたしは大真面目である。


「……それで教育をどうします?」


こういうことは賢い人に聞くべきである。
ちょっと紙と墨を持ってきてくれないか?


「……まったく進歩しておりませんな、王子」


こうして、悪人退治のときとまったく同じように、
わたしは城門に張り紙を出したのである。




5.大賢者、再び現る


果たして二日後。


城にひとりの男が現れた。衛兵がやってきた。


「王子。現れました!
 王国を必ず幸せにする教育を知っているとのことです」


やはり世間は広い。


「ハチバンと申すそうです」


またかよ。
その名を聞いて宰相は怒りをあらわにした。


「うぬぬ、この間はトンズラしおったくせに、
 また性懲りもなく来おったか。
 王子、今度はひっつかまえてやりましょう!」


まあ、せっかくわざわざ来てくれるんだから、
話だけでも聞いてみたらどうだい?


「わかりました!」


しばらくして、衛兵がハチバンを連れてきた。


あ、久しぶりだね。じいちゃん。


「はあ。おひさじゃのう」


また来てくれてありがとう。


「ふぉっふぉっふぉ」


この世に二人といない賢者なんだって?


「そうでもないがの」


すると宰相の雷声が飛んできた。


「そうでもないわ!
 まったく、この間の件をどう説明するつもりじゃ?」


「あれはのう、あいつらが思ったより賢かったのじゃ」


「……あんたが思ったよりバカだったんじゃないのかね?」


「ふぉっふぉっふぉ」


「笑ってごまかすなよ」


「ワシの策をかわすとは、なかなかやつら、見どころがある。
 これでこそ教育のやりがいもあるというものじゃ」


「言いわけすなっ。なぜ、当日すっぽかしたのじゃ?」


「まあそうお怒りあるな。じつを言うとな」


と、ハチバンは頭をかきながら話した。


「この間の件はのう、
 城門におもしろい張り紙があったもんじゃから、
 ついいたずら心が沸いてきてのう。
 おもしろい張り紙にはおもしろい企画で返そうとしたまでじゃ」


「……本当かよ」


「じゃが、今回はチクとちがいまする。
 教育という未来の礎の法を問われるというならば、
 このわたくしめ、誠意をもってご返答したい所存でございますのじゃ」


しかし宰相は完全にハチバンを信用していない態度である。


わたしはハチバンに説明した。


みんなが幸せになれば、それはすばらしいことだろう?


「はあ」


そのためには、教育が大切だと思う。


「へえ」


しかし、すべてのことを教えるのは不可能だろう、と思う。


「はあ」


しかも、多くのことを教えたところで、
人々が幸せになるとも限らない。


「へえ」


要は、みんな笑顔で暮らせるような平和で豊かな国にしたい、
それだけなのさ。
そこで教えてほしい。何をどのように教えればいい?


するとハチバンはゆっくりとうなずいた後、答えた。


「昔々のことじゃった」


うん。


「ある国にのう、オオカミに育てられた子供たちがいたのじゃ」


オオカミに?


「そうじゃ。
 その子供たちが人間に発見されたとき、
 なんとオオカミそのものになっていたのじゃ。
 四つんばいで走りまわり、遠吠えをしていたというのじゃ」


はあ。そりゃすごい。


「つまりじゃ。オオカミに育てられれば、
 知らず知らずのうちに、オオカミそのものとなる。
 これは大変なことじゃ。
 もし、みなが逆立ちをして生活をしていたら、
 生まれた子も知らず知らずのうちに、
 必ず逆立ちして生活するようになるのじゃ」


まさか。


「いや、必ず当たり前のように
 逆立ちをして生活するようになるのじゃ。
 そして、そのことに疑問を持たないのじゃ。
 そして体育の授業では、
 二人組みで一生懸命、普通に立つ練習をしているのじゃ」


……そんなバカな。


「つまりはのう、人間は知らず知らずのうちに、
 まわりの環境通りに育つものなのじゃ。
 よって、すばらしい環境を作りだせば、後は何をせずとも、
 知らず知らずのうちにすばらしい人物が育つということじゃ」


なるほど。


「しかしながらのう、
 すばらしい環境は、すばらしい人物が作りだすものでもある」


ここで初めて宰相は唸った。


「……うーむ。なるほど。鶏が先か、卵が先かということじゃな」


「そういうことじゃのう」


では、先にすばらしい環境が必要なのかい?
それとも先にすばらしい人物が必要なのかい?


「そこじゃよ王子。別にどちらでも構わんのじゃ。
 それならば、まずは王子御自身が
 すばらしい人物となってはいかがかのう?」


わたしが?


「そうじゃ。王子は何も人々を教育する必要はない。
 ただ、王子が人々にどうあってほしいか、
 常に自らの行動で示し続ければよいのじゃ。
 王子が誠実であれば、やがて人々も誠実となりましょうぞ。
 王子が博打好きであれば、やがて人々も博打好きになりましょうぞ」


なるほど!


「自らの姿で示すこと。これが教育の本質でござる。
 人は人の姿から教わるものです。
 そもそも、自分ができていないのに、
 いったい何を教えるというのじゃろうか?」


そうか。わたしが率先してやればいいのだ。


「これを不言の教えといいますのじゃ。
 それじゃ、この辺でサイナラ」


突然立ち去ろうとするハチバンを宰相はあわてて呼び止めた。


「待ってくだされ。
 わたしはどうやらあなたを誤解していたらしい。
 ちょっと失礼」


宰相はそう言いながら、奥へ小走りに消えた。
しばらくして、宰相はきらびやかな装飾を施した袋を持ってきた。


「どうかこちらを受け取っていただきたい」


ハチバンはその袋を受け取ると、
外から指でつっついたり匂いを嗅いだりした。
中にはたくさんの宝石や金貨が入っているのだろう。
が、ハチバンはそれを宰相に返した。


「結構じゃ」


固辞するハチバンに宰相はあわてて説明した。


「いや、わたしはあなたに感謝の意を表しています。
 あなたの論を借りれば、
 これはわたしが人々に感謝の気持ちを持ってほしいから、
 自らの姿で示しているのです。どうか受け取ってくだされ」


するとハチバンは微笑んだ。


「お心遣い、誠に感謝する次第じゃ。
 ですがのう、わたしがその袋を受け取らないのは、
 人々が正義を忘れてお金に目を眩まされないよう、
 自らの姿で示していますのじゃ。どうかその袋の中身は、
 人々が笑顔で暮らせることができるよう、お使いくだされ」


「!」


「それではご機嫌よう。ふぉっふぉっふぉ」


「……王子。わたしの目は節穴だったようです。
 ハチバン殿。なんとすばらしい人物でしょうか。
 さっそく、わたしも今日から不言の教えを実行します」


そうしよう!
こうしてわたしたちはその後、
人々が笑顔で暮らせるようにずっと笑顔で暮らし始めたのである。



6.不言の教えの効果


ところが、一月ほどたったある日、宰相はわたしに報告した。


「王子。どうもおかしいのです。
 わたしも不言の教えをずっと実行していますが、
 国はますます貧富の差が激しくなり、泥棒も相変わらず増えています」


わたしも楽しい暮らしをしているというのに、
いったいどうしたんだろう? 


「もう一度、ハチバン殿を呼びましょうか?
 ひょっとしたらわれわれ、
 また一杯食わされた可能性も否定できませんぞ」


あまり人を疑うものではないよ。
でも、はっきりさせる必要はあるか。
わたしたちはもう一度ハチバンを招くべく、
三度目の張り紙を出したのである。



するとほどなく、ハチバンが姿を見せた。


相変わらずのんびりとしているハチバンに、
宰相は鋭く詰め寄った。


「今日そなたを呼んだのはほかでもない。
 困ったことになったのじゃ。
 そなたの教え通りにしたものの、
 そなたの言うとおりにはならぬぞ?」


すると、ハチバンは言った。


「……いや、わたしの言うとおりになっていますぞ」


「どこがじゃ?」


「王子。それに宰相」


「はい?」


「あなた方は自ら笑顔で暮らしていましたがな、
 それは人々から集めた税金を使っての奢侈な生活によるもの。
 そんな統治者たちの姿を見て、人々は贅沢な生活にあこがれ、
 そして一部の人々は実際にするようになった。
 がしかし、ほかの大多数の人々は貧しい生活を余儀なくされておる」


……。


「私利私欲のために税金を無駄に使えば、それは泥棒と同じである。
 統治者たちが泥棒となるならば、オオカミに育てられた子のごとく、
 人々もその姿を見て泥棒となろう。 
 つまり、あなた方自身がいまのような国の状況を作り出しているのでござる。
 王子、宰相。あなた方は不言の教えを実行したのですぞ!」




そうです、まったくそのとおりです。
ここ最近は楽しかったけれど贅沢三昧でした。
ああ、無駄使いしてごめんなさい。
わたしは心から反省した。


すると、ハチバンは語気を和らげ破顔した。


「ふぉっふぉっふぉ。ですが王子、
 その反省の心があれば心配は無用のようですじゃ。
 この国はやがて素直でいい国になりまするぞ。では失礼」


ハチバンはくるりと向きを変えて姿を消したのである。


その後この国はどうなったか。
みんな悪いことをすると謝るようにはなったという。


八番目の大賢者 終
posted by marl at 15:34| Comment(1) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年05月22日

悪気はなかった

1 太陽系の生まれた理由


遠い遠い昔のこと。


『何か』が、かくれんぼをしようと思ったらしい。


ところが、その何かはあわてたのか、仲間を集める前に隠れてしまった。
だから、何かが隠れていることをだれも知らない。
そして、いまもまだ見つかっていない。


その何かが隠れていることに逸早く気づき、
最初に探そうとしたのは、太陽だった。


太陽は自ら暗闇に光を放ち、隠れたであろう何かを照らし出そうとした。


しかし、見つからなかった。


太陽が唯一、その何かについて知っていることは、
太陽自身がその何かによって生み出された、ということであった。


太陽には、わかっているだけで十人の仲間がいた。
何かが隠れている、ということに気づいた太陽の賢明さと、
それを探そうとする行動力にひかれ、集まってきた仲間である。


太陽は十人に問いかけた。


「どうだみんな? どこにいるかわかったかい?」


しかし、どの惑星も黙ったままだった。
なぜなら、あの伝説があるからだろう。


見つけたものは燃えて死す


みんな燃え尽きるのは嫌なのだ。
だから、だれも本気で見つけようとしていないのだ。




2 人間の生まれた理由


地球、すなわちわたしはみんなに言った。


みなさん。このままではいけないと思いませんか?
わたしはたしか、太陽さんのまわりを四十五億回ほど回ったと思います。
でも、何かがどのあたりにいるかさえ、未だにわからないなんて。


それでわたしは考えました。
このわたしの体の上に、知恵ある生命体をたくさん生み出そう。


「知恵ある生命体?」


はい。わたしには、水もあれば酸素もある。
気候も水星さんや冥王星さんほど厳しくない。
生命を生み出すには、絶好の環境だと思いました。


「ほう。なるほど」


そして生まれました。知恵ある生命体が。


「え? もう生まれたの?」


はい。わたしは彼らを人間と呼んでいます。


「人間?」


はい。そして今日、何かの居場所を発見した、という人間が現れました。


「タイミングがいいな」


はい。そんな彼といま、ライブでつながっています。


「手際もいいな」


彼はいま友人にその考えを説いています。
というわけで、彼の声を聞いてみましょう。


わたしはそう言って、ある人間たちの会話とその映像を太陽系内に映し出した。




3 人間の叡智


あのさ、わかったんよ。おれ


「何が?」


神様が隠れた場所。


「はあ?」


この宇宙を造っておきながら、未だにどこにいるかだれもわからない、
だれも見つけられないその場所さ。アンタは知ってるかい?


「そんなもん知るかいな」


そうやろ? オイラはわかった。


「……どこ?」


いいか、よく考えてみな。
神様はこの宇宙を造ったんだぜ?
そしたらアンタ、普通は造った宇宙のど真ん中にいるはずよ。


「何で?」


だってアンタ、隅っこにおるようなヤツが、こんな宇宙を造るか?


「……造らんわな」


そうやろ? 神様はきっと隅にはおけないやつよ。
つまり、この宇宙のど真ん中にいる。


「けれど、ど真ん中ってどこよ?」


そこだよ問題は。
どこがこの宇宙のど真ん中なのか。
それを知るためには、この宇宙の四隅がどこなのか知らなきゃならんだろ?


「ああ、四隅がわかれば、真ん中もわかるわな」


それでオイラ調べた。そしたらビックリ。
何と果てがないんや。この宇宙は!


「ええ? それじゃどこが宇宙のど真ん中よ?」


そこだよ問題は。
よく考えてみたら、果てがないなら、
宇宙のどこにいてもど真ん中やないか。


「ははあ」


つまり、宇宙のど真ん中は、オイラや


「!」


だから、神様の隠れた場所は、オイラの心の中や!


「おお!」


そしてオイラの中だけやない。アンタの心の中にもいる!
だってアンタも宇宙のど真ん中だから


「ええ?」


さらにはアンタの中だけでもない。
小さな虫の中にいる。緑の木々の中にいる。この石ころの中にいる!


「ああ!」


すなわち、万物に神宿る、ということだよ。




4 人間の滅びた理由


二人の会話を聞き終えた太陽は言った。


「地球君」


……は、はい?


「……人間って、おもしろいね!」


ホ、ホントですか?


このときわたしは不覚にも、赤くなってしまったのである。


そのとき、地表の気温は一気に上昇。火山は激しく噴火。
数え切れぬほどの巨大な火柱が暴れ狂い、人間は滅びたのである。
そんなものなのか人生。


見つけたものは燃えて死す……
こうして伝説は的中した。
わたしのせいである。


ちなみに『何か』は、まだ隠れている。
はよ出てこいやー!




悪気はなかった 終
posted by marl at 22:26| Comment(1) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

教えてください

1 入門初日


わたしは世界を救うという先生に弟子入りした。


ならば先生、お尋ねします。
苦しんでいるすべての人々を救い、
平和を実現するにはどうすればよいでしょうか?


先生は寺院の庭にある菩提樹の下で目を閉じて座っていた。


やがてうっすらと目を開け、
わたしの顔を細い目で見つめた後、おもむろに立ち上がった。


先生! どうか教えてください!
わたしは思わず土下座して嘆願した。


すると先生は、黙って右足を一歩前へ出した。


「?」


わたしは立ち上がり、先生と同じように右足を一歩前へ出した。
こうでしょうか?


すると先生は右足を引っ込めて、今度は左足を一歩前へ出した。
わたしも同じように左足を一歩前へ出した。こうでしょうか?


そのしぐさを見届けた先生は、
微笑みながら寺院へと戻っていってしまった。




2 入門2日目

 
あくる日の朝、わたしは先生の部屋を訪れた。
先生! ようやく先生が何をおっしゃりたかったのかわかりました。


先生は黙って目を閉じていた。


どんな大きなことでも、
小さな一歩一歩から始めなさい
、という意味ですね?


すると先生はうっすらと目を開け、
わたしの顔をじっと見つめた後、おもむろに立ち上がった。


どうでしょう?
わたしも立ち上がって尋ねると、先生は黙って右手を差しだした。
わたしは差しだされた先生の右手をしっかり握った。


正解ですね?


すると先生は、今度は黙って左手を差しだした。
……先生?


わたしは仕方なく、左手で先生の左手を握った。
……こうでしょうか?


両手で交互に握手を交わすと、
先生は壁の方を向いて寝転び、そのまま寝てしまった。




3 入門3日目


あくる日の朝、わたしは先生の部屋に飛び込んだ。
先生! ようやく先生が何をおっしゃりたかったのかわかりました。


先生は経典を開いて黙読している最中だった。


お互い握手をしっかり交わすことで、
仲良くすることから始めなさい
、という意味ですね?


すると、先生は経典を膝下におき、
わたしの方を向いて座りなおした。
そして、わたしの顔をじっと見つめた後、
微笑みながら右手で頭をボリボリとかき始めた。


正解、ですか?


すると先生は、微笑みを浮かべたまま、
今度は左手で頭をボリボリかき始めた。
……先生?


わたしは仕方なく、微笑みを浮かべながら、
左手で頭をボリボリかき始めた。
……こうでしょうか?


頭をかき終えた先生は、ふたたび経典を手に取って読み始めた。




4 決別のとき


こうして一年がたった。


わたしは一日も休まず、先生のもとを訪れて教えを請い続けた。
そしてわたしの考えは、
先生との日々のやり取りを重ねていくうちに複雑化していった。


この日の朝も、わたしは先生のもとを訪れた。


先生は最初の日と同じように、菩提樹の下で目を閉じて座っていた。


先生。
ようやく、ようやく先生が何をおっしゃりたかったのかわかりました。


先生はそのままじっとわたしの顔を見た。
わたしはその悟るところを述べ始めた。


右足を一歩前へ出すことは、
左足を一歩前へ出すことと同じぐらい簡単です。


右手で握手することは、
左手で握手することと同じぐらい簡単です。


微笑みながら右手で頭をボリボリかくことは、
微笑みながら左手で頭をボリボリかくことと同じぐらい簡単です。


先生はじっとわたしを見ている。わたしは続けた。


したがって、苦しんでいるすべての人々を救うことができる者は、
同じぐらい簡単に、楽しんでいるすべての人々を苦しませることができる者です。


が、しかし!
そんな者はいません。

 
先生の眉がピクリと動いた。
わたしはさらに続けた。


そんな者はいませんが、身近な人を喜ばすことはできる。
そして人は、みんなだれかとつながっている。
だから、みんなが身近な人を喜ばせることができたら、みんな幸せになれる。


だから、すべての人を助けようなんて大それたことは考えず、
常に自分の周りにいる人と仲良く助け合えばよい。
すると、その幸せが人のつながりを通じて広がっていき、
やがては苦しんでいるすべての人々も幸せになることができる。



それが、それこそが、先生のおっしゃりたかったことですね?


わたしはついに悟りを開いたと確信した。


が、先生は手を後ろに組んで、おもむろに空を見上げた。
せ、先生! ちがうのですか?


「……」


わたしは地面に崩れ落ちた。
む、無念です。どうか、どうかお願いです。
答えを教えてください。


先生は腰を下ろしてわたしの顔を優しく見つめた後、
とうとうその口をゆっくりと開いた。


「まず、正しい心を持つことが大切である」


はい。


「そうすれば、正しい望みを持つことができる。
 正しくない心は正しくない望みを生み、百害をもたらすのみ」


はい。


「そうして正しい望みを得たならば、
 それを叶えるために、状況を正確に認識しなさい。
 なぜなら正確な認識を元に判断しなければ、
 望んだ正しい結果が得られないからである」


はい。


「したがってまず、わたしが思い出さねばならない」


……何をでしょうか?


「あなたの質問である」




教えてください 終
posted by marl at 02:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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