2005年06月18日

空でうたたね物語 目次

空でうたたね物語


その1.「じゃんけん三国志」
不思議な三国動乱の時代に生を受けたあなた。
どんな失敗をしても知恵と体力を振り絞って生き抜く!


その2.「はじまりのはじまり」
あなたはすべてを知り、宇宙を作る神になる。
そんなあなたがただひとつ知らなかったこと。その答えがわかるかな?


その3.「祈って走って」
祈り続けるあなたの横をずっと走り続ける男。
その男の意外な過去にあなたはどんな未来を描く?


その4.「未来からの使者」
科学技術の粋を駆使して未来からやってきたあなた。
人類の科学文明をこきおろした挙句の結末は?


その5.「蝸牛の気持ち」
あなたはほかの生物へと進化したい一匹のカタツムリ。
そんなあなたに隣の友は大切なことを語るが……。


その6.「天国か地獄か」
あなたは地獄の閻魔のもとにやってきた。
判決を待つあなたに閻魔が告げた真実は意外なものだった?


その7.「教えてください」
世界で苦しむ人々を救う先生に弟子入りしたあなた。
先生は奥ゆかしくあなたを導いているようだが……。


その8.「悪気はなかった」
見つけたものは燃えて死す?
そんな伝説をも怖れずに鬼を探そうと挑むのは、
あなたが生み出した人間だった!


その9.「八番目の大賢者」
王国の治安悪化に奮闘するあなたの前に現れたのは伝説の大賢者。
いったいどんな策を繰り出すのか?


その10.「預言者はどっちだ」
この地から争いをなくすために、三百年に一度現れるふたりの預言者。
あなたは世界を平和にできるか?
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預言者はどっちだ

1.預言者ふたり現る


ある国に、預言者と呼ばれる者が二人現れた。


ひとりは国の東側で多くの民衆の支持を受け、
「イースト」と呼ばれた。


もうひとりは国の西側で同様に名を馳せ、
「ウェスト」と呼ばれた。


イーストとウェスト、どちらが本当の預言者なのか。
世論はまっぷたつに割れた。


その噂は、国王の耳にも届いた。
国王も、どちらが本物なのか疑問を持った。


「二人を闘技場に呼べ」


国王は二人を大きな闘技場に呼び寄せ、
多くの民衆の前で議論をさせようとした。

 
決戦が始まった。


まずイーストは、闘技場を埋め尽くす民衆に向かって問いかけた。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「そして、その争いに勝った者が子孫を残してきた」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、争ったやつらの子孫であり、
 争いを好む遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は争いだらけになるだろう!」


「やっぱりそうかあ!」 


これをじっと聞いていたウェスト。
しばらくして、闘技場の中央で叫んだ。


「果たしてそうだろうか!」


 そして、闘技場の民衆に問いかけた。


「たしかに、人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「そんなやつらはまちがいなく早死にする」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、争わなかったやつらの子孫であり、
 争いを好まない遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は平和で充たされるだろう!」


「な、なるほど〜」


闘技場の民衆は、東側も西側も一斉にウェストを支持した。
イーストも思わず言った。


「なるほど〜」


ウェストは勝ち誇ったように言った。


「やっとわかったか。この偽預言者め。
 おまえのような思想を持つ者を生かしておくと、
 この国の将来に禍根を残すであろう」


そう言うやいなや、
ウェストは腰の剣を勢いよく抜いたかと思うと、
あっという間にイーストをまっぷたつに斬り下げた。


ウェストは剣を高く掲げて叫んだ。


「平和の世がきたれり!」


国王は言った。


「あっぱれウェスト。
 なんじこそ、偽の預言者から国を守った英雄じゃ!」


名声を上げたウェストは、国王の側近として登用された。


しかし数年後、権力を握ったウェストは国王を追放、
自ら王となりウェスト王国を建国、
その親族は権力を独占し、栄華をきわめた。


しかしさらに数十年後、ウェスト王は暗殺され、
子孫は血で血を洗う権力争いを繰り広げた。


そこへ北のノース帝国が、
内乱に乗じてウェスト王国に攻め込んだ。
あっけなく国は滅び、ウェストの一族は滅亡した。


そして時代は過ぎ、ひとときの平和が訪れた。


人々の間では、議論が絶えなかった。
イーストとウェスト、いったいどっちが正しかったんだろう? 


ウェストさ。
ウェストの一族は争いが好きだったんだ。
だからウェストの一族は早死にした。
そしていまの平和がある。
つまり、ウェストは身をもって持論を証明したのだ。


いや、イーストさ。
ウェストはたしかに争い好きで滅びたが、
天下を制して生き残ったのは、
これまた争いで勝ったノース帝だ。
結局、争いを好む者が最後には生き残るのさ。


こんな議論だけなら良かったが、やがて人々は、
どちらを支持するかという意見の対立から、
お互いを憎しみ合い、命を奪い合う激しい争いをまた始めてしまった。


そこにひとり、今度は未来を予言する者が現れた。


「あの預言者たちが現れてから三百年後、真の預言者が現れる。
 その者はこの地の混乱を鎮め、世界に真の平和を築くであろう」


そう言ったこの男は、
自分の信念を貫いて様々な予言を行ったが、
当時の社会に影響をおよぼすようになったため、
ノース帝の命で抹殺された。




2.預言者再び現る


そして三百年の時がすぎた。
そして予言は的中した。


この地に再び、預言者と呼ばれる者が現れたのである。
しかも、また二人であった。


ひとりは国の東側で多くの民衆の支持を受け、
「イーストの再来」と呼ばれた。


もうひとりは国の西側で同様に名を馳せ、
「ウェストの再来」と呼ばれた。


どちらが本当の預言者なのか。
世論は三百年前と同様、またまっぷたつに割れた。


その噂は、三百年前と同様、国王の耳にも届いた。
国王もどちらが本物なのか疑問を持った。


「二人を闘技場に呼べ」


国王は、三百年前と同様、二人を大きな闘技場に呼び寄せ、
多くの民衆の前で議論をさせようとした。


そして再び、決戦が始まった。


まずイーストの再来は、
闘技場を埋め尽くす民衆に向かって問いかけた。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「その争いを生き残ったやつらは、
 争うときには争って勝ち、平和なときには平和に暮らした。
 だから生き延びたのだ」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、したたかな遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来はせちがらく、住みにくい世になるだろう!」


「やっぱりそうかあ!」


これをじっと聞いていたウェストの再来。
しばらくして、闘技場の中央で叫んだ。


「果たしてそうだろうか!」


そして、闘技場の民衆に問いかけた。


「これまでの戦乱で、多くの人々が死んだ。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「死んだやつらは、争いを好むやつもいれば、
 平和を好むやつもいた。共通するのは、不運だったということだ」


「そうだそうだ」


「ゆえに生き残ったわたしたちは、幸運な遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は幸運に包まれるだろう!」


「な、なるほど〜」


闘技場は、東側も西側も、一斉にウェストの再来を支持した。
イーストの再来は言った。


「こ、これはもしや後攻が有利なのでは?」


ウェストの再来は勝ち誇って言った。


「やっとわかったか。この偽預言者め。
 おまえのような思想を持つ者を生かしておくと、
 この国の将来に禍根を残すであろう」


そう言うやいなや、
ウェストの再来は腰の剣を勢いよく抜いたかと思うと、
あっという間にイーストの再来をまっぷたつに斬り下げた。


と思ったつぎの瞬間、
剣は高い音を響かせてまっぷたつに折れ、空高く舞い上がった。
イーストの再来は言った。


「こんなこともあろうかと、服の下に鎧を着ておいたのだ」


「なんと、したたかなやつ……」


そして折れて舞い上がった剣は、ウェストの再来の頭に落ちてきた。


「なんと、不運なやつ……」


イーストの再来は鎧を脱ぎ、それを高く掲げて叫んだ。


「せちがらい世がきたれり!」


「な、なるほど〜」


闘技場は、東側も西側も、今度は一斉にイーストの再来を支持した。


国王は言った。


「あっぱれイーストの再来。
 なんじこそ、偽の預言者から国を守った英雄じゃ!」


名声を上げたイーストの再来は、国王の側近として登用された。


しかし数年後、イーストの再来は国王をしたたかに追放、
自ら王となりイースト再来王国を建国、
その親族は権力を独占し、栄華をきわめた。


しかしさらに数十年後、
イーストの再来はせちがらく暗殺され、
子孫は血で血を洗う権力争いを繰り広げた。


そこへ南のサウス王国が、
内乱に乗じてイースト再来王国へしたたかに攻め込んだ。
あっけなく国は滅び、イーストの再来の一族は滅亡した。


そして時代は過ぎ、ひとときの平和が訪れた。


人々の間では、議論が絶えなかった。
イーストの再来とウェストの再来、
いったいどっちが正しかったんだろう?


ウェストの再来さ。
ウェストの再来は、とにかく運がなかったよ。
だから、折れた剣が自分の頭に刺さって死んでしまった。
つまり、ウェストの再来は身をもって持論を証明したのだ。


いや、イーストの再来さ。
ウェストの再来はたしかに不運だったが、
イーストの再来が幸運だったわけではない。
したたかに鎧を着こんでいたから助かったのだ。
そして結局、したたかなサウス王が国を取った。
結局、したたかなやつが最後には生き残るのさ。


こんな議論だけなら良かったが、
やがて人々は、どちらを支持するかという意見の対立から、
お互いを憎しみ合い、命を奪い合う激しい争いをまた始めてしまった。


そこにひとり、また未来を予言する者が現れた。


「あの預言者たちが現れてから三百年後、真の預言者が現れる。
その者はこの地の混乱を鎮め、世界に真の平和を築くであろう」


そう言ったこの男は、自分の信念を貫いて様々な予言を行ったが、
当時の社会に影響をおよぼすようになったため、
サウス王の命で抹殺された。




3.預言者三度現る


そしてまた、三百年の時がたったのである。


この地には新しい王がいる。


「そろそろ預言者が現れる年だな」


国王は側近であるわたしにふとつぶやいた。


でも、預言者って何なのですか? わたしにはよくわかりません。


すると国王はニカッと笑った。


「言葉でな、すべての人々を幸せにする者を、預言者というのだ」


そんなことができますか?


「それができたら、奇跡だな。
 ゆえに預言者とは、神から言葉をあたえられた者、という意味なんだ。
 でも、もしそんな言葉があるとすれば、探してみたいとは思わないか?」


探す、のですか?


「そう。どんな言葉も文字の組み合わせで表現できる。
 そうすると、世界を幸せに導く言葉は、案外あるかもしれんぞ。
 みんなが発見していないだけで」


なるほど。それはおもしろい考え方ですね。


「だろう? まあ言ってみれば、眠る魔法だよ。
 魔法の呪文が、数十文字の無限の組み合わせの中に眠っているのさ。
 その呪文を見つけ出して唱えさえすれば、世界が変わる。
 その綴り方を知っているのが、預言者なのさ」


でもわたしには、むしろ逆のように思えてなりません。


「?」


だって国王、この地には、
古くから預言者と呼ばれた者が四人も現れましたよ。
しかし彼らは、すべての人々を幸せにすることは
できなかったと言っていいでしょう。


「……」


それどころか、自分の信じる預言者が正しい、
優れていると、人々は争いを始めました。
意見のちがいはちがいとして、
お互いを認め合って暮らすことができなかったのです。


「みんな仲よくせなアカンな」


しかしながら、彼らの説くところはどれも一理あるものばかりでした。
いったいだれが正しかったのでしょう?


国王は少し考えた後、言った。


「みんな正しいことを言ったのかもしれんな。よし」


突然国王は、眉間にしわを寄せて胸をはり、
威風堂々たる預言者のポーズを取った。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


わたしは国王のこういう遊び心が大好きである。
わたしはニヤリと笑って囃し立てた。


そうだそうだ!


「なぜ争ってきたのか。それは、いろんな種類の人間がいるからだ」


そうだそうだ!


「幸運な者あれば不運な者あり。
 したたかな者あれば素直な者あり。
 争いを好む者あれば平和を望む者あり。そうだろう?」


そうだそうだ!


「ゆえに歴史は、繰り返しの遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は過去の繰り返しとなるだろう!」


な、なるほど! やっぱりそうかあ〜!


「……よし、つぎはおまえさんの番だ」


は? わたしが?


「バカモン。この地は古来より預言者が二人ずつ現れる。
 二人目をやらんか」


いや、それは無理です。何しろ本番に弱い。


「何が本番だ。こういうのを茶番というんだ。適当にやってみな」


さらに国王は釘を刺した。


「わかっているだろうが、この預言者対決は、
 まったく正反対の意見を言わなきゃならんぞ。
 それでいて、説得力がないといかん」


……はあ、では、まあひとつ。


「お」


わたしは頭をかきながら、弱々しく預言者のポーズを取った。


人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?


国王はとても楽しそうだ。


「そうだそうだ」


なぜ争ってきたのか。それは、いろんな種類の人間がいるからだ。


「そうだそうだ」


だがそいつらはみんな、海から生まれ、陸に上がり、
気の遠くなるような年月をかけて、
人間へと進化したものばかりだ。そうだろう?


「そうだそうだ」


ゆえに歴史も、進化する遺伝子を持っている。
そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
未来はより良いものへと必ず進化するであろう!


「……なるほど。まあまあだな」


……まあまあ、ですか? 


「まあひょっとすると、また預言者が現れるかもしれんな。
 そのときは、闘技場に人を集めてみようか」


そしてその日から数ヵ月後のことである。


国中に噂が駆け巡った。
なんとこの地にまたまた、
預言者と呼ばれる者が二人現れた、というのである。


わたしは王の間のドアをバンッと跳ね開けて中に駆け込んだ。


国王! 予言が的中しました!
現れたそうです! 本当に、預言者が現れました!


鼻毛を切っていた国王は、ニヤニヤしながら言った。


「きよったか?」


はい! しかも聞いてください。
ひとりは国の東側で多くの民衆の支持を受け、
『イーストの再々来』と呼ばれているそうです!


「そしてもうひとりは、国の西側で同様に名を馳せ、
『ウェストの再々来』と呼ばれているのだろう?」


そのとおりです。よくご存知で。


「それぐらいわかるわ」


国王は片方の鼻の穴を親指で押さえて、
フンと勢いよく鼻毛を飛ばした。


わたしは急かすように言った。


もちろん、呼ぶのでしょう? 慣例に倣って闘技場に。


すると国王は不敵な笑みを浮かべながらわたしに言った。


「おいおい、
『歴史は、進化する遺伝子を持っている』と言ったのは、おまえさんだろう?
 慣例に倣えば、それは進化ではない。繰り返しじゃないか」


ええ? それでは呼ばないのですか?


「……フッフッフ、今度の日曜日、闘技場だ」


呼ぶのですね。やった!
わたしは声を弾ませた。ワクワクしますね?


「そうだな」


国王はニタニタ笑っている。


「それがな」


国王はいたずら小僧のように目を輝かせて言った。


「じつは預言者は、ひとりしかいなかったんだ」


え? そうなんですか?


「最初にひとり、国の東側で噂になった人物がいたんだ。
 けれど、そのひとりだけだったんだ」


でも、わたしは二人いると聞きましたよ?


「そうだろう。だから仕方なく噂を流したのさ。ワシが」


ええ? どういうことですか?


「ウェストの再々来は、おまえがやれ」


げ、げええ!


「心配ない。
 おまえさんはなかなかいい言葉を持っていると思うよ。
 来週の日曜日、世界に魔法をかけてみないか?」


そ、そんな、できませんよ!


「大丈夫。歴史的には有利な後攻だ。
 まあ危なくなったら助けにいくからさ」


国王は、ニカッと笑った。


翌日、国王はなかば強引に国中へ発令を出した。


「二人を闘技場に呼べ」




そして運命の日曜日。三度目の決戦が始まった。


イーストの再々来と呼ばれる男は、
過去の対決から学んだのか、頭の先からつま先まで全身を鎧で固めていた。


そんなに防備を固めなくてもいいのに……。
よほど警戒しているな。
ウェストの再々来、すなわちわたしはそう思いながら、
イーストの再々来と対峙した。


「さあ、そろそろ行こうか? ウェストの末裔さん」





イーストの再々来は不敵にわたしに語りかけた。
この余裕……。わたしは背筋に戦慄が走るのを覚えた。


そして、民衆に埋め尽くされた闘技場の真ん中で、
イーストの再々来はその戦いの火蓋を切った。


「人類は昔から争いばかりしてきた。そうだろう?」


「そうだそうだ」


「なぜ争ってきたのか。
 それは、人間が生きるために足りないものを
 獲得しなければならない動物だからだ」


「そうだそうだ」


「その争いを繰り返すことで、わたしたちは進化をしてきた。
そうやっていままで生き延びてきたのだ」


「そうだそうだ」


「ゆえにわたしたちは、争いながら進化する遺伝子を持っている。
 そして、その遺伝子は時代を追うごとにますます研ぎ澄まされ、
 未来は争いと進化を繰り返すことになるだろう!」


「やっぱりそうかあ!」


「すなわち、世界に平和は来ない!」


イーストの再々来は力強く断言した。


これをじっと聞いていたウェストの再々来、すなわちわたし。


どうしよう。世界に平和は来ないだって?


たしかにアンタの言うことはまったくそのとおりだ。
人類の歴史上、平和が来た試しはないよ。
でも、だから何なんだ。
人々を幸せにしなけりゃ、世界を平和にしなけりゃ、
預言者とは言えないんだぞ。


わたしは腹をくくって、闘技場の中央で語り始めた。


たしかにそうかもしれない。

けれど、わたしたちがほしいと思うものは、
何もお金や食べものだけではないよね?
エネルギーや領土だけではないよね?


「……」


平和は、ほしくないかい?


「……」


闘技場は静かになった。


なぜ争いを繰り返すのだろう?


それはたしかに、
必要なものが足りていないと思っているからなんだ。
だからみんな、不安になって争い、それが原因で憎しみあってきた。


「……」


だから本当は、耳を澄ましてお互いに何が足りないのか
よく聞かなきゃならないのに、
みんな自分の主張ばかりを通して、人の話を聞こうとしないんだ。
そして逆に、自分の話を聞かない連中を不要なものとして排除しようとする。


「……」


そうやって世界はずっと争いを続けてきて、
傷つけあい、憎しみあってきた。
けれど、もうその争いも限界まできてしまった。
もうわたしたちはケンカをやめなければ、
生きることさえできなくなる。


「……」


だからわたしたちは、あらゆる足りないものを、
奪いあうのではなくて、補いあう必要があるんだ。


「……」


もし、わたしたちが本当に平和を必要とするならば、
わたしたちはいままでとはちがう、新しい進化を始める。


わたしたちは争うことをやめて、
平和を得るために、お互いに耳を澄まし始める。
相手の言うことを耳で聞こうとする。
そして理解しあい、充たしあう。


「……」


すると、平和がきっとやってくる。
いつかきっと、そう思うんだ。


みんな聞こえているかい?
オレはそう思うんだ!
だってみんな、みんな仲間やないか!


闘技場を静寂が包んだ。


……だめか?


しばらくの沈黙の後、闘技場が静かに揺れ始めた。


「……そうだ」


「……そうだよ」


「そうだそうだ!」


「な、なるほど〜」


そして闘技場は、東側も西側も、一斉にわたしを支持してくれた。
あ、やった……。やった!
わたしは割れんばかりの大歓声に包まれた。


そこへ静かに声をかけたのは、イーストの再々来だった。


「耳を澄ましても、みんな文句ばっかりかもしれんぞ?」


え? その声は?
イーストの再々来は兜を脱ぎ始めた。
すると兜から出てきたものは、見たことのあるだれかの顔だった。


こ、国王!


「まったく、おまえさんには負けるよ」


国王はニカッと笑った。


わたしは国王の笑顔を見ると涙があふれてきた。
そしてついには、国王に抱きついて泣いたのだった。



預言者はどっちだ 終
posted by marl at 22:13| Comment(1) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月05日

八番目の大賢者

1.賢者募集のお触れ書き


「……足りない」


唇をへの字にした宰相は、
席を立っては落ち着かなく部屋を歩き、
また座っては頭を抱えた。
これはきっと性格である。


「……牢屋が」


 そこへひとりの衛兵がやってきた。


「またです宰相。今日も百人ほど引っ張られてきました。
 もういっぱいで入れませんよ?」


「……またか」


「まったく、最近は犯罪が増える一方ですね」


「おまえさんはこの原因を何だと思う?」


「やはり、国王が出張で留守だからではないでしょうか?」


「……やはりそう思うか?」


「はい」


なるほど。この国の王はいま留守なのか。
それで悪いことをする連中が増えている、というわけだ。


宰相は腕組みをしてため息をついた。


「まったく、民衆というものは難しい。
 ちょっと王がいなくなるとすぐこれだ。
 いっそのこと、刑をうんと厳しくするかね?」


「入れる牢屋がありませんよ。刑を厳しくする前に、牢屋を増やしていただかないと」


「増やそうにも資金がないのだよ」


「じゃあ逆に刑期をうんと短くして、回転率を上げたらどうでしょう?」


「どれぐらいにするのだ?」


「思い切って、五時間」


「却下だ。短すぎる」


「いや、その五時間を狭い部屋に立ちっ放しにするんです。
 意外に苦痛で、場所も取らない。
 受刑待ちもすぐ解消されますよ?」


なかなかいいアイデアじゃないか。
けれど、宰相は相変わらずのしかめ面だ。


「だめだめ。
 そんなことをしたら悪いことをするやつがどっと増える。
 せっかく回転率を上げた牢屋も行列のできる店のようになる。
 そうなったらどうするね?」


「店舗を増やします」


「……何の店だね?」


「そうだ。最近、王子が勉強をしていると聞きます。
 何かいい方法を考えてくれるかもしれませんよ?」


宰相は首をかしげながらわたしを見た。


「王子、さっきから黙っていますが、
 何かいい方法はありますかの?」


なるほど。わたしは王子ということらしい。


よし、こうなったら悪人を一網打尽にして、
この国をよくしようじゃないか。
わたしは無邪気にそう言った。


「だから、どうやって?」


こういうことは賢い人に聞くべきである。
ちょっと紙と墨を持ってきてくれないか?


「紙と墨、ですか? わかりました」


衛兵が紙と墨を持ってくると、
わたしはさらさらとお触れを書いた。


最近、王国で悪いことをする人たちが増えている。
だから、悪い人たちを一網打尽にする方法を募集する。
うまくいったらお礼する。


これでよし!


「これでよしって、何ですこれは?」


お触れである。これ、城門に張っておいて。
すると宰相は噴き出した。


「王子。失礼ながら、こんなものが通用するとお思いですか?」


まあ、何事もやってみないとわからないのである。




2.大賢者の登場

 
果たして二日後。


城にある男が現れた。衛兵が報告にやってきた。


「王子! 現れました!
 悪人を残らず退治できる方法を知っているとのことです」


やっぱり世間は広い。


「ハチバンと名乗っております」


「な、何ですとおお?」


宰相はあわてて聞き返した。だれだハチバンって?


「王子!
 もし本物であれば、われわれは大変ついていますよ。
 ハチバンというのは、伝説の大賢者です」


変な名前だな。


「そうなんです。
 由来はずいぶん昔にさかのぼりますが、
 西洋に七賢人と呼ばれる賢い人たちがいました。
 東洋でも七賢と呼ばれる賢い人たちがいました。

 その西洋と東洋の賢者十四人を教えたのはひとりの大賢者だった、
 というウソみたいな伝説があるのです。

 それが『八番目の大賢者』。

 そして、その血を継ぐ賢者のことを、
 八番目の大賢者の末裔ということで、
 ハチバンと呼ぶようになったのです。

 そのハチバンが、わが城に訪れてくださったのですよ!」


面白い展開になってきたぞ。じゃあ、さっそく来てもらおうか。


「わ、わかりました!」


衛兵は大きな体を揺すりながらハチバンを呼びに戻った。


しばらくして、衛兵は杖をつきながら歩く
背の曲がった小柄なじいさんを連れてきた。


おじいちゃんがハチバンさん?


「はあ。そうですのじゃあ」


わざわざ来てくれてありがとう。


「ふぉっふぉっふぉ」


すごい賢者なんだって?


「そうでもないがの」


宰相は微笑んでハチバンを迎え入れた。


「よく来てくださいました。
 ご謙遜なさらずともよいですよ。
 ハチバンの伝説はよく聞いております。
 これほど力強いことはございません。
 どうかあなたの偉大な知恵をお借りしたいのです」


わたしはハチバンに説明した。


張り紙にも書いたけれど、
最近悪いことをする人が増えているんだ。


「はあ」


でもやっぱりわたしは、この国をいい国にしたいと考えている。


「へえ」


そのためには、悪いことをする人を捕らえなければならない。


「はあ」


だけど、すべての悪人を捕らえるのは不可能だ、と思う。


「へえ」


そこで教えてほしいんだ。どうしたらいいと思う?


「……ご意見、ごもっともじゃ。
 しかしながらのう、すべての悪人を捕まえる必要はござらん」


というと?


「この国で最も悪い者を捕らえればよいのじゃ。
 そうすれば悪いことをしようとする者も、
 次第にその心を失っていくものじゃ」


なるほど!
つまり、悪の親玉を封じ込めればいいわけだ。


しかし、どうしたら悪の親玉を捕まえることができるのか?
宰相も口を挟んだ。


「そうです。もしできるなら、
 見つけ出してひっつかまえてきてほしいものです」


「心得ておる」


自信のありそうなハチバンに対して、宰相は続けて言った。


「ただし、悪の親玉の決定方法は、
 誰が聞いても納得のいくものでなくてはなりませぬ。
 決定方法は、賢者であるハチバン殿に任せようと思いますが、
 いかがでしょうか?」


「承知いたした。すでに名案があるわい」


「ほう。どんな案ですか?」


ハチバンは説明した。


「まずこの国の者に、
 こいつは最悪だと思う者の名を挙げてもらうんじゃ」


「ほう」


「そうして名前が挙がったすべての悪人に、
 だれが最悪か、その名前を挙げてもらうんじゃ」


「な、なるほど!
 世間の名だたる悪人に、だれが最悪かを聞くのですな。
 すると悪人中の悪人がわかる! これは名案じゃ!」


「まずは五日ほど時間がかかる。よろしいかの?」


こうしてハチバンは、悪の親玉を捕まえるべく、
国内をヨタヨタと歩きまわった。




3.一網打尽の計


五日後、わたしたちとハチバンは再び会った。


「これはこれはハチバン殿。調査の方はどうでしたか?」


宰相が尋ねると、ハチバンは力強く何度もうなずいた。


「やはり、思ったとおりじゃの」


わたしは思わず身を乗り出して尋ねた。
で、最悪の男はいったいだれだったの?


「国中の者に聞いたところ、
 たくさんの悪人の名が挙がりおった」


うん。


「その悪人たちに、だれが最悪と思うか聞いたのじゃ」


そ、そうしたら?


「そうしたらみんな、『おれが最悪だ』と言ってはばからん」


……ええ?


「しかしご心配あるな。
 ここからが本領発揮じゃ。
 すでに悪人どもを一網打尽にする手を打ってある」


ええ? どんな手?


「今回名前の挙がった悪人どもを集結させ、
 悪事の限りを尽くさせて闘わせるのじゃ。

 生き残った者はまちがいなく最悪。
 ゆえに、これを捕らえればよい。
 ほかの悪人は、この闘いで討ち死にする。
 つまり、国内に悪人はいなくなる。
 これぞ一石二鳥どころか、一石万鳥の妙案というものじゃ」


「おお! すごい! さすがは世界一の賢者殿!」


宰相は感嘆した。悪人を一網打尽!
恐るべき計略である。


「三日後じゃ。闘技場に召集をかけておる」


「わかりましたぞ!」


こうして宰相とわたしは
期待に胸を膨らませて三日間待ったのである。


そして運命の三日後。


「だれも来ないじゃないか」

「よく考えたら、約束を守るような連中ではありません」

「ハチバンはどうした?」

「来てません」

「あいつが最悪かもしれんな……」




4.逆転の発想


一週間後、わたしは宰相の執務室を訪れた。


宰相は机に積まれた書類の向こうから顔を出した。


「あら珍しい。どうしたのですか?
 王子からわたしに会いにくるなんて」


この間の悪人退治の件である。


「ああ、あの大失敗した件ですな。
 よく考えたら、そんなにうまくいくはずはありませんな」


いやいや、失敗は成功のもとである。
ちょっと考え方を変えてみようと思ってね。


宰相は書類に印を押すと、
いったん仕事を切り上げてわたしの話に耳を傾けた。


「と、言いますと?」


要するに、この世界に住むみんなが幸せに暮らせればいいんだろ?


「なんと! 王子も万民の幸福を考えるようになりましたか。
 そうです。そのためにわたしたちはいろいろと政策を考えているのです」


そうなるためには、悪い人が減ればいいのさ。


「……何かこの間といっしょじゃありませんか?」


ここからがちがうのである。
わたしは胸を張って言った。


今度は、悪人を退治するんじゃなくて、善人を増やしたらどうだい?


「ほう。逆転の発想ですな」


宰相はニヤニヤしながらも、感心したような表情を見せた。


「それでどうやって増やします?」


教育である。教育が大切だと思う。


「へ? 教育?」


宰相はしばらく開いた口がふさがらなかった。


「どうしたんです?
 あの勉強嫌いの王子が教育を考えるとは?
 熱でもあるんですか?」


宰相はわたしと自分のおでこに手を当てて比べてみたが、
わたしは大真面目である。


「……それで教育をどうします?」


こういうことは賢い人に聞くべきである。
ちょっと紙と墨を持ってきてくれないか?


「……まったく進歩しておりませんな、王子」


こうして、悪人退治のときとまったく同じように、
わたしは城門に張り紙を出したのである。




5.大賢者、再び現る


果たして二日後。


城にひとりの男が現れた。衛兵がやってきた。


「王子。現れました!
 王国を必ず幸せにする教育を知っているとのことです」


やはり世間は広い。


「ハチバンと申すそうです」


またかよ。
その名を聞いて宰相は怒りをあらわにした。


「うぬぬ、この間はトンズラしおったくせに、
 また性懲りもなく来おったか。
 王子、今度はひっつかまえてやりましょう!」


まあ、せっかくわざわざ来てくれるんだから、
話だけでも聞いてみたらどうだい?


「わかりました!」


しばらくして、衛兵がハチバンを連れてきた。


あ、久しぶりだね。じいちゃん。


「はあ。おひさじゃのう」


また来てくれてありがとう。


「ふぉっふぉっふぉ」


この世に二人といない賢者なんだって?


「そうでもないがの」


すると宰相の雷声が飛んできた。


「そうでもないわ!
 まったく、この間の件をどう説明するつもりじゃ?」


「あれはのう、あいつらが思ったより賢かったのじゃ」


「……あんたが思ったよりバカだったんじゃないのかね?」


「ふぉっふぉっふぉ」


「笑ってごまかすなよ」


「ワシの策をかわすとは、なかなかやつら、見どころがある。
 これでこそ教育のやりがいもあるというものじゃ」


「言いわけすなっ。なぜ、当日すっぽかしたのじゃ?」


「まあそうお怒りあるな。じつを言うとな」


と、ハチバンは頭をかきながら話した。


「この間の件はのう、
 城門におもしろい張り紙があったもんじゃから、
 ついいたずら心が沸いてきてのう。
 おもしろい張り紙にはおもしろい企画で返そうとしたまでじゃ」


「……本当かよ」


「じゃが、今回はチクとちがいまする。
 教育という未来の礎の法を問われるというならば、
 このわたくしめ、誠意をもってご返答したい所存でございますのじゃ」


しかし宰相は完全にハチバンを信用していない態度である。


わたしはハチバンに説明した。


みんなが幸せになれば、それはすばらしいことだろう?


「はあ」


そのためには、教育が大切だと思う。


「へえ」


しかし、すべてのことを教えるのは不可能だろう、と思う。


「はあ」


しかも、多くのことを教えたところで、
人々が幸せになるとも限らない。


「へえ」


要は、みんな笑顔で暮らせるような平和で豊かな国にしたい、
それだけなのさ。
そこで教えてほしい。何をどのように教えればいい?


するとハチバンはゆっくりとうなずいた後、答えた。


「昔々のことじゃった」


うん。


「ある国にのう、オオカミに育てられた子供たちがいたのじゃ」


オオカミに?


「そうじゃ。
 その子供たちが人間に発見されたとき、
 なんとオオカミそのものになっていたのじゃ。
 四つんばいで走りまわり、遠吠えをしていたというのじゃ」


はあ。そりゃすごい。


「つまりじゃ。オオカミに育てられれば、
 知らず知らずのうちに、オオカミそのものとなる。
 これは大変なことじゃ。
 もし、みなが逆立ちをして生活をしていたら、
 生まれた子も知らず知らずのうちに、
 必ず逆立ちして生活するようになるのじゃ」


まさか。


「いや、必ず当たり前のように
 逆立ちをして生活するようになるのじゃ。
 そして、そのことに疑問を持たないのじゃ。
 そして体育の授業では、
 二人組みで一生懸命、普通に立つ練習をしているのじゃ」


……そんなバカな。


「つまりはのう、人間は知らず知らずのうちに、
 まわりの環境通りに育つものなのじゃ。
 よって、すばらしい環境を作りだせば、後は何をせずとも、
 知らず知らずのうちにすばらしい人物が育つということじゃ」


なるほど。


「しかしながらのう、
 すばらしい環境は、すばらしい人物が作りだすものでもある」


ここで初めて宰相は唸った。


「……うーむ。なるほど。鶏が先か、卵が先かということじゃな」


「そういうことじゃのう」


では、先にすばらしい環境が必要なのかい?
それとも先にすばらしい人物が必要なのかい?


「そこじゃよ王子。別にどちらでも構わんのじゃ。
 それならば、まずは王子御自身が
 すばらしい人物となってはいかがかのう?」


わたしが?


「そうじゃ。王子は何も人々を教育する必要はない。
 ただ、王子が人々にどうあってほしいか、
 常に自らの行動で示し続ければよいのじゃ。
 王子が誠実であれば、やがて人々も誠実となりましょうぞ。
 王子が博打好きであれば、やがて人々も博打好きになりましょうぞ」


なるほど!


「自らの姿で示すこと。これが教育の本質でござる。
 人は人の姿から教わるものです。
 そもそも、自分ができていないのに、
 いったい何を教えるというのじゃろうか?」


そうか。わたしが率先してやればいいのだ。


「これを不言の教えといいますのじゃ。
 それじゃ、この辺でサイナラ」


突然立ち去ろうとするハチバンを宰相はあわてて呼び止めた。


「待ってくだされ。
 わたしはどうやらあなたを誤解していたらしい。
 ちょっと失礼」


宰相はそう言いながら、奥へ小走りに消えた。
しばらくして、宰相はきらびやかな装飾を施した袋を持ってきた。


「どうかこちらを受け取っていただきたい」


ハチバンはその袋を受け取ると、
外から指でつっついたり匂いを嗅いだりした。
中にはたくさんの宝石や金貨が入っているのだろう。
が、ハチバンはそれを宰相に返した。


「結構じゃ」


固辞するハチバンに宰相はあわてて説明した。


「いや、わたしはあなたに感謝の意を表しています。
 あなたの論を借りれば、
 これはわたしが人々に感謝の気持ちを持ってほしいから、
 自らの姿で示しているのです。どうか受け取ってくだされ」


するとハチバンは微笑んだ。


「お心遣い、誠に感謝する次第じゃ。
 ですがのう、わたしがその袋を受け取らないのは、
 人々が正義を忘れてお金に目を眩まされないよう、
 自らの姿で示していますのじゃ。どうかその袋の中身は、
 人々が笑顔で暮らせることができるよう、お使いくだされ」


「!」


「それではご機嫌よう。ふぉっふぉっふぉ」


「……王子。わたしの目は節穴だったようです。
 ハチバン殿。なんとすばらしい人物でしょうか。
 さっそく、わたしも今日から不言の教えを実行します」


そうしよう!
こうしてわたしたちはその後、
人々が笑顔で暮らせるようにずっと笑顔で暮らし始めたのである。



6.不言の教えの効果


ところが、一月ほどたったある日、宰相はわたしに報告した。


「王子。どうもおかしいのです。
 わたしも不言の教えをずっと実行していますが、
 国はますます貧富の差が激しくなり、泥棒も相変わらず増えています」


わたしも楽しい暮らしをしているというのに、
いったいどうしたんだろう? 


「もう一度、ハチバン殿を呼びましょうか?
 ひょっとしたらわれわれ、
 また一杯食わされた可能性も否定できませんぞ」


あまり人を疑うものではないよ。
でも、はっきりさせる必要はあるか。
わたしたちはもう一度ハチバンを招くべく、
三度目の張り紙を出したのである。



するとほどなく、ハチバンが姿を見せた。


相変わらずのんびりとしているハチバンに、
宰相は鋭く詰め寄った。


「今日そなたを呼んだのはほかでもない。
 困ったことになったのじゃ。
 そなたの教え通りにしたものの、
 そなたの言うとおりにはならぬぞ?」


すると、ハチバンは言った。


「……いや、わたしの言うとおりになっていますぞ」


「どこがじゃ?」


「王子。それに宰相」


「はい?」


「あなた方は自ら笑顔で暮らしていましたがな、
 それは人々から集めた税金を使っての奢侈な生活によるもの。
 そんな統治者たちの姿を見て、人々は贅沢な生活にあこがれ、
 そして一部の人々は実際にするようになった。
 がしかし、ほかの大多数の人々は貧しい生活を余儀なくされておる」


……。


「私利私欲のために税金を無駄に使えば、それは泥棒と同じである。
 統治者たちが泥棒となるならば、オオカミに育てられた子のごとく、
 人々もその姿を見て泥棒となろう。 
 つまり、あなた方自身がいまのような国の状況を作り出しているのでござる。
 王子、宰相。あなた方は不言の教えを実行したのですぞ!」




そうです、まったくそのとおりです。
ここ最近は楽しかったけれど贅沢三昧でした。
ああ、無駄使いしてごめんなさい。
わたしは心から反省した。


すると、ハチバンは語気を和らげ破顔した。


「ふぉっふぉっふぉ。ですが王子、
 その反省の心があれば心配は無用のようですじゃ。
 この国はやがて素直でいい国になりまするぞ。では失礼」


ハチバンはくるりと向きを変えて姿を消したのである。


その後この国はどうなったか。
みんな悪いことをすると謝るようにはなったという。


八番目の大賢者 終
posted by marl at 15:34| Comment(1) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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