2007年12月15日

神様からのeメール


一.「神様からのeメール」



ある日、わたしの携帯電話に妙なメールが入った。


「件名 あなたの願い叶えます 差出人 神」


……なんだこれ? 神だって?


このようなメールには気をつけるべきである。
返信したが最後、後から高額の請求が来たりだとか、
わけのわからないスケベメールが来たりだとか、
ロクなことがないのは目に見えている。


つまり、即消去である。
そう思った瞬間、新しいメールが入った。


「件名 消去はちょっと待った 差出人 神」


なんだこれ?
タイミングが良すぎる。気持ち悪っ。
しかし、わたしは何となくそのメールを開いてしまった。


「メッセージ
開いてくれたようだね。結構。
あなたはあなたの夢への扉をいま開いたのだ。
さて、これからわたしの出す問題に答えることができれば、
あなたの願うものを何でも手にいれられる方法を教えよう
さあ、どうする?」


……あやしい。やはり消去するしかない。
と思ったらまた次のメールが入った。


「件名 第一問 差出人 神」


……さっそくきやがった。
しかし、第一問と来たら見ずにはいられないのが人間だ。


「メッセージ
あなたは喉が渇いて、どうしようもなく水が飲みたくなった。
でも、あなたが持っているのは塩だけ。
そして、この社会にはお金がない! さあ、どうする?」


なんだこの問題は?
お金がない社会、だって?
そこで喉が渇いたから、塩を使ってどうにかしろ、だって?


わたしは少し考えた。


塩をじっと見てツバを出す。
よし、返信。


しまった!
つい返信してしまった。
こんなえたいの知れないメールに返信してしまって、
悪いことが起きなければいいが……。


しばらくすると、新しいメールが届いた。



「件名 見解 差出人 神」


さっそく回答がきやがった。わたしは恐る恐るそのメールを開いた。


「メッセージ
ツバ、出るか?」


……出ないだろうな。
よし、じゃあこうしよう。
水を持っている人を探そう。そしてこう言うんだ。
この塩と水を交換してください。
返信してやるぜ。


すると数分後、新しいメールが届いた。


「件名 第二問 差出人 神」


……第一問はあれでよかったのか?
まあいい。つぎは第二問だ。わたしはメールを開いた。



「メッセージ
それでは第二問だ。
あなたの呼びかけに一人のデザイナーが現れた。そしてこう言った。
『水は持っているけど、塩はいらないのよね。
蜂蜜となら交換してあげるけど』
 さあ、どうする?」


ほう、なるほど。
わたしが水を飲むためには、蜂蜜を手に入れなきゃならない、
というわけか。


ならばこうだ。
蜂蜜を探しに森に入る。
返信。さあ、どう来る?


間髪入れずに新しいメールが届いた。


「件名 第三問 差出人 神」


「メッセージ
あなたは森へ入った。
そこには森の蜂蜜を牛耳る木こりがいた。あなたは言う。

『わたしは塩を持っています。
よかったら蜂蜜と交換してもらえませんか?』

 すると木こりはこう言った。
『おい小僧。そんなものはいらん。
この蜂蜜がほしければ、娘の喜ぶコアラのぬいぐるみを持ってこい』
さあ、どうする?」


コアラのぬいぐるみ?
つまり、わたしは水を飲むために、
木こりの娘の喜ぶコアラのぬいぐるみを探して蜂蜜と交換する。
その蜂蜜をデザイナーへ届けて水をもらう……。


ちょっと待て。頭を使え。
どこまで行こうが、わたしの持っているものは塩しかない。
塩のほしい人からしか、何かを交換することはできないのだ。
ならば塩のほしい人をまず集めた方がいい。
その中から水か、蜂蜜か、あるいはコアラのぬいぐるみを
持っている人を探せばいい。


宣伝をします。
塩のほしい人いないか?
返信!


新しいメールはすぐに届いた。


「件名 第四問 差出人 神」


「メッセージ
なるほど。いい発想の転換だ。
あなたが宣伝した結果、塩のほしい人が五人集まった。
しかし、水はおろか蜂蜜も
コアラのぬいぐるみも持っているやつはいない。
だが、その中に、
『どうしても塩がほしいから、この犬をやる』
と言って聞かないやつがいた。さあ、どうする?」


犬? 犬ねえ……。そうだな……。
まあ、犬は鼻が利く。
コアラのぬいぐるみはいざ知らず、
蜂蜜なら匂いを嗅がせれば見つけてくるかもしれない。


塩と犬を交換する。
そして森の木こりのところに戻って、
この犬に蜂蜜の匂いを嗅がせろと懇願する。
返信だ!


神様からは相変わらずハイペースで問題が送られてくる。


「件名 第五問 差出人 神」


「メッセージ
『まあいいだろう』
木こりは蜂蜜の入ったビンのふたを開けると、
あなたの犬はクンクンと匂いを嗅いだ。どうやら匂いを覚えた様子だ。
さあ、どうする?」


よしよし、いい子だ。
その調子で蜂蜜を探してくるんだぞ。よし、行ってこい!
わたしは犬をなでた後、勢いよく野に放った!


返信!


神様からのメールは続く。


「件名 第六問 差出人 神」


「メッセージ
あなたは勢いよく犬を放ったが、犬はここぞとばかり逃げ去った。
残ったのは犬をつないでいたヒモだけ。さあ、どうする?」


げ! あいつ!
頼みの犬が逃げてしまった……。
ヒモ? 使えんなあ……。
どうしようか……。
わたしは数分悩んでしまった。


すると神様からメールが届いた。なんだ、催促のメールか?


「件名 ヘルプ 差出人 神」


ヘルプまでしてくれるのか。やけに面倒見のいい神様だ。


「メッセージ
どんなに悪い状況になっても、あきらめてはいけない。
前向きに行動すれば、必ず活路は開けるものだ」


なるほど。励ましてもくれるわけだ。仕方ない。
ヒモのほしい人を探して町を歩きまわるか。
これで返信と。


するとすぐに新しいメールが届いた。


「件名 第七問 差出人 神」


「メッセージ
町を歩くあなたの耳に、大工のおじさんの声が聞こえてきた。
『ヒモほしいなあ。このクギとトンカチと交換してくれないか?』
さあ、どうする?」


……しかし、さっきから一向に水に辿り着く気配がない。
ここは交換するべきかどうか。
もし、ここでヒモを交換してしまったら、
後から水を持っている人がヒモをほしがっている場合に対応できない。
くそっ、どうすればいい……。


わたしはまた十分ほど返信できずにいた。


すると神様からメールが届いた。


「件名 ヘルプ 差出人 神」

来た、ヘルプだ。ここはいい助言を期待しよう。

「メッセージ
あなたは相手のほしいものを持っている。これは強みだ。
これを利用すれば、
あなたのほしいものも手に入りやすいのではないのかね?」


なるほど! さすがにいいこと言うぜ神様!
つまりこうだ。
大工のおやじにこう言うわけ。
オレは水か、蜂蜜か、コアラのぬいぐるみがほしい。
だから、それらを持ってきてくれたら、このヒモと交換してやろう。
返信!


テンポよく神様からのメールは続く。


「件名 見解 差出人 神」


「メッセージ
なるほど。
だが、いまの第七問の回答に点数をつけるとすれば、六十点だ。
なぜだかわかるかね?」


六十点? なぜだろう?
いいアイデアだと思ったが……。
言い方が偉そうだったのか?
わたしはまたまた数分メールを返せずにいた。


すると神様もまたまた助けの手を差し伸べる。


「件名 見解 差出人 神」


「メッセージ
相手の立場になって考えることが大切だ。
たとえば、あなたがさっき大工のおじさんに言ったことを、
逆に言われたとしたら、どんな気持ちになる?」


どんな気持ちだ?
……偉そうに、しかもケチ臭い。
困っているのに助けてくれよ……ぐらいか。


そうか、あまり相手は喜んでいないな……。
むしろヒモを交換してあげて相手を喜ばせつつ、
クギとトンカチを有効に使う方法を考えるべきだな。


……いや、思い切ってヒモをタダであげたらどうだ?
つまり、こういう男前な展開はどうか。


「あ、このヒモですか? もしよかったら、どうぞ使ってください。
差し上げます」
「え? いいの?」
「あどうぞどうぞ」
「助かるわ兄ちゃん! ありがとう! でも、何かお礼を……」
「いえいえ。そんな、いいんですよ」
 と笑顔で対応した後、さりげなくこう言うわけだ。


「……ちょっともののついでにお聞きしたいんですけど」
「おう! 何でも聞いてくれ」
「じつは、水か、蜂蜜か、
コアラのぬいぐるみを探しているんですけど、
どなたかお持ちの方、ご存知ですか?」

こうすれば、大工のおやじは
親身になって協力してくれるにちがいない。
もし望むものが手に入れられなかったとしても、
この大工のおやじは今後わたしの味方になってくれるはず。
よし、この方法で行こうか!
返信!


神様からメールが届いた。


「件名 第八問 差出人 神」

「メッセージ
あなたのその対応で、大工のおじさんはこう答えた。
『ちょっと知り合いにあたってみるわ。
見つかったら連絡するから、兄ちゃんの住所教えといてくれ』
 こうしてあなたはヒモを渡し、大工のおじさんと住所を交換した。
さあ、どうする?」


……どうしよう?
ヒモをタダでやってしまったから、
手持ちがなくなってしまったじゃないか。
大工のおやじの住所なんてどう使えばいい?


よし、町で宣伝をしよう。
大工のおやじの住所を教えますから、
水か、蜂蜜か、コアラのぬいぐるみをください。
返信!


「件名 第九問 差出人 神」


「メッセージ
だれも寄って来ない。
さあ、どうする?」


……見返りを求めている姿勢がよくないのか。
よし、それならこの宣伝でどうだ?
腕のいい大工のおじさん、ご紹介します。
そう、ただ紹介するだけという奥ゆかしさで、
寄ってきたところを仲間にしてしまう。
よし、返信だ!


神様からのメールは続く。


「件名 第十問 差出人 神」


「メッセージ
だれも寄って来ない。
さあ、どうする?」


……うーむ、世間は厳しいな。
仕方ない。
とりあえず、大工のおやじのところに行ってみよう。
こんにちは、おじさん。
この間の件、何か進展はありました?
返信!


しかし、なかなかつきあいのいい神様だ。



「件名 第十一問 差出人 神」


「メッセージ
 おじさんは答えた。
『それが、だれもおらんのや。ごめんな兄ちゃん……』
さあ、どうする?」


……ダメだ。
急に問題が難しくなった。
この壁を乗り越えるにはどうしたらいいんだ?
水だ。とにかく水をくれ。


こうなったらなりふりなんて構わんぞ。
クギとトンカチを大工のおやじから借りよう。
そして、とにかく必要な所にクギを打とう。
だから水を、もしくは蜂蜜か、コアラのぬいぐるみをくれ。頼む!
返信!


「件名 第十二問 差出人 神」


「メッセージ
だが、道行く人々は口々にこう囁いた。
『クギ打ちは、もうこの町には必要ない』
『水をもらおうなんて、甘いわな』
さあ、どうする?」


……絶対あきらめないぞ。
いや、いいクギを打ちますよ。いい音出ますよ。
もっと言えば、クギを打った後、このトンカチで肩も叩きますよ。
効きますよ。だから水をください。お願いします!
返信!


「件名 第十三問 差出人 神」


「メッセージ
『肩叩き? そんなものは間に合ってる』
さあ、どうする?」


……だめだ。
オイラ、ここで干からびて死ぬんかな?
ああ、いまから思えば何もできなかったし。
失敗ばかりのつまらない人生だったな。


……でも、悪いことばかりでもなかったかな?
これまで会ってきたみんな、元気にしてるかな?
思えばそれなりにいい人生だったのかもな。
あ〜あ、なんかつまんねえ……。


神様からメールが届いた。


「件名 まあまあそう落ち込まずに 差出人 神」


「メッセージ
人生なんて失敗だらけやで。
そやけど失敗はな、チャレンジした証拠なんや。
もっと言うたら、失敗かどうかもアンタ次第や。
失敗やおもとることも失敗やない。
おまえさんの夢を叶えるための単なる通過点や。
悪いことばかりの人生やないし、みんなもきっと元気にしとる。
ほーら、さっきの犬も戻してやるから。
コラ! しっかりせい!」

……なんかむかつくんですけど。
ま、そうだな。よし、もう一度やってみるか。
肩の力を抜いて、いったんリラックスだ。


犬が帰ってきたな。
せっかく戻ってきてくれたし、名前をつけるか


よし、おまえの名前はチャンス!
オレにチャンスを運んで来い! 頼むぜ!
……ついでに犬小屋も作ってあげたりしてね。



ん? 犬小屋! そうだ!
大工のおやじに協力してもらおう。
きっと協力してくれるはずだ。


材料はどうする? あ、そうか。
森に住む木こりのおやじに、木を分けてもらおう。
どうやって?
木こりのおやじを喜ばせてあげたらいいわけだ。


どうしたら喜ぶ?


お! これどうだ?
デザイナーの人がいただろ?
あの人にも協力を依頼して、
お洒落な犬小屋をデザインしてもらう。 
そうしてみんなでいい感じの犬小屋を作る。
そうしたらみんな喜んでみんな味方になってくれる!
チャンス、おぬし、なかなかやる!
もうちょっとしたら、いい犬小屋作ってやるから待ってろよ。
これで返信!


神様からのメールが届いた。


「件名 ワハハー 差出人 神」


「メッセージ
 そのような創意工夫、仲間との協力、
そしてあなた自身から発する喜びの感情。
それらはすべてあなたの夢を叶える大切なツールなのだ。


 あなたのプロデュースした犬小屋で、
 デザイナー、木こりの親子、大工のおじさん、チャンス、
みんなが喜んだ。


あなたはこの物語で関係するすべての人を喜ばせた。
 それどころか、犬小屋の評判を聞いた多くの人が、
 あなたと仲間が作る犬小屋を求めてやってきたのだ!


 あなたは大勢の中の一人からコアラのぬいぐるみを譲ってもらい、
 木こりの娘さんにプレゼントした。
娘さんはさらに大喜びだ。
そんな娘さんの姿を見て、
木こりのおじさんは本当に感謝して蜂蜜を山ほど分けてくれた。
その蜂蜜をデザイナーにも山ほど差し出したあなたは、
とうとう水を手に入れたのだ」


お、やった! やったぞ!
喉渇いて死にそうだったからな! ほんとに苦労したぜ。
いったいどれくらい時間がかかったんだ? まったく。


「延べ五日」


……死んでるんじゃないのか? まあいいか……。


とにかく、ありがとう神様。
わたしは返信した。


「件名 第一問 差出人 神」


あれ? 第一問?
また最初からやるの?
わたしはメールを開いた。


「メッセージ
 夢を叶える法則がわかったかね?」


え? 夢を叶える法則?


「件名 第一問 ヘルプ 差出人 神」


「メッセージ
 ひとつめの問題演習は終わった。
次は、あなたの本当の人生をどうするかだ。
あなたは夢を叶える法則をさきほどの演習で学んだはずだが?」


夢を叶える法則?
あれ、どんな法則だっけ?


「件名 第一問 ヘルプ 差出人 神」


「メッセージ
さきほどからのメールを読み返してみたまえ。
あなたが水を飲めたとき、
すなわち、願いを叶えたとき、まわりの人の願いはどうなっていた?」


まわりの人の願いは……、叶っているよね。
そうか、自分だけ願いを叶えることはできない、ってことか……。
みんなの願いをつなぎあわせたとき、みんなの願いが同時に叶う。
そういうことか!
返信!


「件名 第二問 差出人 神」


「メッセージ
なかなかすばらしい答えだ。わたしならこう言おう。
夢を叶える法則。それは、
相手の願いを叶えてあげなさい、ということだ。
わかったかな?


おお、なるほど。なかなかステキな話じゃないか。
わたしは夢を叶える法則を身につけた気がした。


「件名 わたしの夢について 差出人 神」


ん? 神様にも夢があるのか?


「メッセージ
最後にひとつ。
わたしの夢。それは、
あなたがすばらしい人生を送ってくれることなのだ。
あなたなら、わたしの願いを叶えてくれると確信しているよ。
それでは元気で。サイナラ」


あれ? いきなりサイナラ?
ちょ、ちょっと待てよ!
返信! 返信!


しかし、これ以上、神様からの返事は来なかった。
わたしは意外にも淋しくなった。


……しかし、わたしには神様とやりとりしたメールが残っている。
これはなかなかいい。
神様からの教えのとおり、
多くの人を喜ばせて、みんなでみんなの夢を叶える。
これができたら、ちょっと男前だぞ。
そして神様が夢と言ってくれた、すばらしい人生をわたしは送るのだ。
そう考えると、悪くないな、人生。
……神様、ありがと。



この経験をしてから一年後、わたしの夢は決まった。
わたしが神様から大切なことを教えてもらったように、
未来の自分から過去の自分へeメールが打てる仕組みを作ろう、
と決めたのだ。


なぜそう決めたのか。
未来の自分からのアドバイスは、
あのときの神様からのアドバイスのように、
だれにとっても人生の大きな財産になるだろうと考えたからである。
つまり、「よりよい人生を送るための指針がほしい」という
みんなの願いを叶えるのだ。


そうしてわたしはあのときの演習問題のように、
たくさんの人に助けられながら、たくさんの困難を乗り越えて、
ようやくその試作品を完成させた。
気がつけば二十年の月日が流れていた。


ちょっと待てよ……。
この試作品は当然テストをしないといけない。
つまり、わたしは過去のわたしにeメールを送るのか?
どんなeメールを送る?


しばらく考えたわたしは、
eメールのタイトルと差出人の名前をこのように作成した。


「件名 あなたの願い叶えます 差出人 神」


わたしはこれから過去の若いわたしを激励し、
すばらしい人生を送るアドバイスをしようと思う。
それは昔、神と名乗る未来の自分からeメールで受けたアドバイスだ。
差出人が神とはおこがましい話だが、
若い頃のわたしにインパクトを与えるには
これぐらいの荒療治が必要だ。


わたしは声を大にして若い頃の自分に言おう。
夢は叶えることができるんだ、ということを。


【効能】 夢と希望を忘れた心
posted by marl at 02:18| Comment(0) | TrackBack(1) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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