2005年05月01日

はじまりのはじまり

突然わたしは、すべてを知りたくなった。

どうしたらすべてを知ることができるか、ずっと考えていた。
そして、ついに名案を思いついたのだ。

もうひとつ小さな宇宙を創造するのだ。

そして、そこに住む人間の考えていること、やることなすこと、
すべてわたしが把握できるようにするのだ。
そうすれば、わたしは人間を通して宇宙のすべてを知ることができるだろう。

ここで問題が起こった。どうやってその宇宙を創造しようか。
わたしはまた考えた。そして、妙案を思いついたのである。

世界中をまわって、賢者という賢者に会うのである。
そして宇宙を作る方法を知るのだ。

それでわたしは世界中を巡って賢者という賢者に会った。
そしてとうとう、宇宙を創造する方法を知ったのである。

だが、思わぬ誤算があった。

宇宙を創造する前に、わたしはすべてを知ってしまったのである。

なぜなら宇宙を創造するためには、
すべてを知らなければならなかったからである。

そうすると、宇宙を創造する必要がなくなってしまった。

そこで毎日、すべての知識を使っての思考を楽しんだ。
しかし、あることに気がついた。

たしかにすべてを知っているけど、
それらを同時に考えることができないな。
すべてのことを同時に考えることができたら、なんとすばらしいだろう。

そして、ひらめいたのだ。

やっぱり宇宙を創造しよう。
そして、その宇宙の人間が考えていること、やることなすこと、
すべて同時にわたしが把握できるようにしよう。
そうすれば、わたしはわたしのすべての知識を
同時に考えているのと同じことになる。

そうしてわたしは、いよいよ新しい宇宙を創造しようとした。
そのときである。

知らなかったことがひとつだけあったのだ。

いまのわたしの住んでいる宇宙は、
いまわたしが新しい宇宙を創造しようとしているように、
遠い昔にだれかが創造したということを。

わたしは天を見上げてこう言ったのだ。
やるなあ、あんたも。

すると、天から声が聞こえた。

「いや、それほどでも」

わたしは心の中で思った。こいつか、この宇宙を作ったやつは。

「そうです」

そうか、こいつはわたしのいる宇宙のことは何でも把握しているはず。
だからわたしの考えは筒抜けなのだ。こいつにはかなわない。

そう思った刹那、天は意外なことをわたしに言った。

「ひとつ、聞きたいことがある」

いまとなっては、すべてを知っているわたしである。
この宇宙で答えられない質問はない。
しかし、質問をするのはこの宇宙を作ったという天である。
わたしは身構えた。

「わたしはすべてを知って、おまえたちの住む宇宙を創造した。
 だが、わたしがおまえたちの住む宇宙を創造しようとしたとき、
 おまえと同じように天から声が聞こえたのだ。
 そして、わたしはいまからおまえにする同じ質問を受けた。
 そしてわたしは、その質問に答えることができなかった」

わたしはしばし考えた。
天はすべてを知っている存在である。
その天が答えられなかったのに、わたしに答えられるだろうか。

すると天は言うのだ。

「わたしも同じことを考えたよ、天からの声に」

わたしは少し空恐ろしくなった。
そして、天がどのような質問をするかわかったのである。

「さすがに察しがいいな。そのとおりだ。
 わたしはそれをおまえに聞きたい。わたしにもわからないのだ」

わたしは天がしようとする質問を確認した。

いったいだれが最初に宇宙を作ったのか、ということか?

「そうだ」

……ちょっと待ってくれ。わたしは長考に入った。

わたしの宇宙を作ったやつが、いまわたしの前にいる。
そいつのいる宇宙を作ったやつがいて、
さらにそいつのいる宇宙を作ったやつがいる。
その宇宙を作ったやつもいる……。

「どうだ? やっぱりわからないか?」

いや、ちょっと待て。わかった。そんなやつはいない。
宇宙を最初に作ったやつがいたら、
そいつが住む宇宙を作ったやつが必ずいることになる。
だから最初に宇宙を作ったやつはいない。

「じゃあ、なぜわたしたちはここにいるんだね?
 最初に宇宙を作ったやつがいなければ、
 わたしたちはここにいないのではないのかね?」

……ちょっと待ってくれ。わたしは二度目の長考に入った。

そうだ。わたしもわたしの宇宙を作ったやつも、たしかにここにいる。
だから、この宇宙を最初に作ったやつはいる。

だがそれは、物質の世界に住んでいない、形のない何かだ。
なぜなら、物質であれば、必ずだれかが作ったことになるからだ。

最初に宇宙を作ったもの、それを仮にAと呼ぼう。
Aが物質の世界を最初に作った。そのAを作った何かはいない。
Aが最初だからだ。

つまり、Aは初めからいて、ずーっといるが、物質ではない。わかった!

「本当にわかったのか?」

ああ。Aだ! Aが最初にこの宇宙を作ったのさ。

「……Aって何だ?」

わからない。だが、初めからずっといる何かだ。
生まれもしなければ、死にもしない、物質ではない、形のない何かだ。

「そういうのを、『いない』というんだ」

なんと! たしかにそのとおりだ。

「つまり、最初に宇宙を作ったやつは、『いない』ということになる」

……ちょっと待ってくれ。わたしは三度目の長考に入った。

いや、いないんだ。物質の世界には。
物質ではない、つまり言うならば意志だ。
永遠に存在する意志が、物質の世界を最初に作ったのだ。

「ほう。なるほど。たしかに正解だ」

正解だって? 答えがわからないんじゃなかったのか?

「そう。わからない。だが、そこまでは正解なのだ」

わたしは、天が何を言っているのかわからなかった。
すると、天はこう説明した。

「じつは、わたしがおまえたちのAなのだ。
 あなたの物質世界を作った物質でないもの。
 最初からいて、最後までいる永遠の意志。それはわたしだ。
 でも、このわたしの宇宙を作ったやつとは、
 さっき昼寝をする前に話したばかりだ」

さらに天は言う。

「難しいことを言うようだが、わたしはあなたの世界から見れば、
 物質ではないし、永遠にいる意志なのだ。
 なぜなら、わたしはあなたの世界の時間をコントロールすることができる。
 巻き戻し、早送りをして、見たいところを見ることもできる。
 あなたの宇宙を終わらせることもできるのだ。
 あなた方の考え、行動、すべて手に取るように把握している。
 そのように、わたしはあなたの宇宙を創造したのだ。

 しかし、あなたの世界から見たわたしは永遠でも、
 わたしの世界では寿命がある。
 わたしはあなたの世界のAだが、最初のAではないのだよ。
 だからわからないのだよ。いったいだれが最初にこの宇宙を作ったのかね?」

わたしは唸った。わからない。そして疲れてきた。眠たい。……。



どうやらわたしは天を前にして眠ってしまったようだ。
起きたときには天はもういなかった。いくら呼んでも返事はなかった。

天さえもわからない謎。
だが、打つ手はある。わたしの考えはこうだ。

わたしは新しい宇宙を創造する。
そしてその新しい宇宙の中で、すべてを知る者がやがて現れるだろう。

その者は、新しい宇宙を創造できる人間である。
そんな人間に、この問題を聞いてみるのだ。
もしわたしより賢いならば、この謎を解ける可能性がある。

わたしは新しい宇宙を作った。


美しい。
なんと完璧で調和の取れた世界なのだろう。

わたしはこの宇宙のすべての住人に、
このすばらしい宇宙で楽しんでもらいたい。

そして覚えていてほしいんだ。
わたしはこの宇宙のすべての住人をいつも優しく見守っていることを。
あなたが楽しいときにはわたしも一緒に笑い、
あなたが一人で辛く寂しいときには、
そっと寄り添って温かくあなたを包んでいることを。

そしてその人生を終えたなら、あなたはわたしの元に帰ってくるのさ。
だからあなたは一人ではないのですよ。
うっとうしいかもしれないが、いつもわたしがいるわけ。
なぜってわたしはそういう仕組みで宇宙を作っちゃったから。

だからいろいろあるとは思うけど、楽しんでね。
そしてできるだけみんなが楽しめるように助けてあげてね。
なぜってわたしの願いはすべての住人の喜びなのですから。



わたしはそんなことを考えながら、自分の創造した宇宙を優しく眺めていた。
そしてその中で起こるすべてのできごとや、人々の思考を把握して楽しんでいた。

さてと。どこにいるのかな……。いたいた。

そこにいたのは、すべてを知りたいと思っている人間だった。
つまり、わたしの謎解きの後継者だ。

さて今度の後継者は、本当にすべてを知ることができるだろうか?
頼むから、つぎの後継者に先送りしないことを祈る。


はじまりのはじまり 終
posted by marl at 20:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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