2005年05月11日

蝸牛の気持ち

朝起きると、わたしはカタツムリになっていた。なぜ?


隣には友人のニシキマイマイがいる。どうしよう?


とりあえず、話しかけることにした。


……なあ?


「どうした?」


わたしはふと疑問に思ったことを尋ねた。


なぜおれたち、カタツムリなんだ?


するとニシキマイマイは驚いて、二本の角を出した。


「おまえ、生きる意味を悩んでいるのか?」


ニシキマイマイは、二本の角を交互に出し入れしておどけてみせた。
しかし、わたしは真剣である。


ちがう。
おれの言っていることは、もっと高度に生物学的なことなのである。
すなわち、なぜおれたちは、カタツムリのままでいるのか。
それが知りたいのである。


「……」


ニシキマイマイが黙っているので、わたしは身振りを交えて説明した。


つまりこういうことさ。
最初の生物は海から生まれた。やがて陸に上がった。
そして生命は進化を繰り返し、
空を飛ぶ鳥や、道具や言葉を使う人間まで現れた。
アイツらは高度に進化した生命のひとつだろう?


「ふむ」


しかし、おれたちは何だ?
カタツムリのまんま、何も変わっていないじゃないか。
おれたちはなぜこんな状態になってしまったのか?
これ以上、進化しないのか?


するとニシキマイマイは言った。


「……おれが思うに、進化とは、環境への適応にすぎないのだ。
 つまり、おれたちはおれたちなりに環境に適応したということだと思うよ」


これで? よく言うよ。もっとおれは高度になりたい。


「鳥みたいに?」


そう。空を飛びたい。


「やめとけって。きっと寒いよ。
 高くなると気温が下がるっていうからさ。
 もっとも、鳥たちはもともと恐竜だったんだ。
 それが環境に適応して進化して、空を飛ぶようになった。
 それで寒いと感じたやつらが羽毛を持つようになった、という説があるんだ」


じゃあ、人間はどうだ?


「あれだけはやめとけって。とにかく忙しいらしいよ。
 おれたちみたいなトロい生物に勤まる代物じゃねえよ」


でも、みんな人間みたいに賢くて、機敏で、
言葉も話せて、道具も作れて、火も使えるように進化したら、
それはすごいことなんじゃないか?
おれたちももっと高度にならなきゃ、ほかの連中に申しわけが立たないよ?


するとニシキマイマイは首を横に振った。


「いや、それはちがうと思うぞ。考えてもみろ。
 おれたちを含めて、すべての生物が人間になったら、
 自然界のバランスが取れないじゃないか。
 いったい人間は何を食うっていうんだ?
 そうなったら共食いするしかねえよ」


バランス……か。


「しかも、そういう問題だけじゃないんだ。
 同じ種類の生物しかいない場所の環境がガラリと変わったら、
 変化に対応できなくて全滅だぜ?」


はあ……。そういうものかな?


「そうだよ。生物に多様性がなくなれば、
 それだけ生態系が不安定になるということなんだ。
 しかし、生物に多様な個性があれば、環境の変化が起こったときに、
 生き残る生物もたくさんいるということだよ。
 つまり個性とは、新しい未来の可能性なんだよ


なるほど。こいつは意外に賢いな。


「だから、
 おれたちはおれたちでいいんだよ。立派にひとつの生命じゃないか。
 よく見てみな、この背中の渦巻きを。
 こんなに美しいものを持っているのも、おれたちだけだぜ?」


わたしは背中の渦巻きを見た。そう言われると、そんな気もする。
近くで見ると、なかなか壮観である。


「それに、あんたの渦は左巻きだろ? 十分個性的だよ」


そうなのか? わたしは背中の渦の巻き方向を調べた。


「一般には右巻きが多いからな。
 まあ右巻きと左巻きなんて一見どうでもいいようだけど、
 この差が何かの弾みで大きな差になるかもしれないんだ」


どういうことだ?
するとニシキマイマイは身を乗り出して説明し始めた。



「つまりこういうことさ。
 砂漠に住む鳥がいてね、その鳥は砂の中に潜む虫を食べて生きていたんだ。
 ところがその虫の数が環境の変化で激減した」


そりゃ大変だ。


「そう。大変なことになった。
 当然、その鳥の数も激減した。
 でも絶滅はしなかった。なぜだかわかる?」


まったくわからん。


「くちばしがたった数ミリ、長い連中がいたのさ。
 それでそいつらは地中深くに残っている虫を食べることができたので、
 結果として絶滅をまぬがれたのさ」


はあ〜、なるほど。


「長いくちばし。これが種を絶滅から救った個性だったというわけ」


意外な個性だね。
そうだ、わたしも思い出した。こんな話もあるよ。
今度はわたしが身を乗り出して説明した。


これは人間の話なんだけど、
仕事ができなくて上司たちに怒られてばっかりの部下がいたんだ。
けれど、その部下はどんなに怒られてもいつも適当にやり過ごした。
まったくふさぎ込む様子もなくいつもヘラヘラ笑ってたんだ。


「ふむ」


そんな中、環境の変化で上司たちもきっちり成果を求められるようになった。
すると、じつはそれほど仕事ができるわけでもなかったその上司たちは、
地位も名誉も年収も一気にダウン。それでとうとう会社をクビになってしまった。


「そりゃ大変だ」


そう、大変なことになった。
結局、ほとんどの上司が絶滅した。
でも、人間は絶滅しなかった。なぜだかわかる?


「まったくわからん」


初めから仕事ができなかった部下だよ。
彼は環境が変わってもまったくいつもの調子で日々を過ごしたんだ。
それでとうとう会社をクビになってしまった。


「そりゃ大変だ」


いや、それが全然大変じゃないんだ。
彼は会社をクビになっても、
まったくいつもの調子でひょうひょうと生き続けたんだ。
だから結局、子孫をたくさん残して、
自分も笑いのある豊かな人生を送ったんだ。


「はあ〜、なるほど」


太い神経。これが種を絶滅から救った個性だったというわけ。


「意外な個性だね」


ニシキマイマイはうなずきながら言った。


「つまりそういうことだよ。
 どんなものでも見方しだいで長所になる。
 だからあんたの左巻きの渦も、あながち役に立たないとは言えないわけ」


……何か、むかつくんですけど。
わたしはニシキマイマイの顔をじっと見た。


……おかしい。これは絶対夢だ。
そろそろ目が覚める予感がする。
そして会社に行かねばならない気がする。


でも楽しかったよ。ありがとうニシキマイマイ。
わたしも自信を持って生きることにするよ。
そしてさらばだニシキマイマイ。また会う日まで。


蝸牛の気持ち 終
posted by marl at 01:26| Comment(4) | TrackBack(1) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どうも!幸せまんです!
ありがとう!またまた感動!
うなるぜ!
Posted by 幸せまん at 2005年05月11日 18:44
幸せまんさん、こんばんは!
いつも応援ありがとうございます!

ランキング、一緒にがんばりましょうね!
読んでくれた人が元気になって、
何度も見にきてくれるような
ブログを目指しましょう!
Posted by marl at 2005年05月12日 02:02
> marlさん
 コメント有難うございます。
「短い言葉でサラッと読めていいですね。」ってうれしくなります。またお立ち寄りください。
どんなものでも見方しだいで長所になる。
短所とおもっているのは自分だけかもしれない。
周囲に気をとられていると自分を失う。
自分の人生は自分が決めている。
そう思います。
Posted by 前向きな心と人のぬくもり at 2005年05月12日 23:51
たまたま、ここへたどりつきました。いえ、正確には、ニシキマイマイでたどり着きました。
読ましていただいて、不思議な気がしました。
と言うのは、私も、今日、ニシキマイマイと話をしたからです。
先月、綾部から持ち帰った殻が生きていることがわかって、ニシキマイマイらしかったんですが、今日、手のひらのうえで、でてきてくれたんです。
うれしくて、色々、お話など、してしまいました。
Posted by まいまい at 2006年05月28日 00:34
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