2005年05月14日

天国か地獄か

閻魔さんは思ったより親しげであった。


「おお、お疲れさん」


さきほど死んだばかりのわたしは、閻魔さんに向かってこう言った。
どうです? 見ていたでしょう、わたしの人生。


「おお」


とにかくわたしの人生は、
だれかに仕組まれていたかのようにずっとずっと苦しかった。
しかし、わたしはウソのひとつもつきませんでしたし、
人を悲しませるような行いもしませんでした。


「苦しかっただろう?」


もうホント、苦しかったですよ。


「じつはな、あれ、あんたの言うとおり、仕組まれていたのだ」


やっぱり! やっぱりそうでしたか!
わたしもうすうす感づいてはいましたが、
あれらの苦しみは、すべてわたしへの試練だったのですね?


「まあ、そういう人もおる」


特にあの人生後半の苦しみといったら、悲惨としか言いようがない。


「そうだろう。あんたの行ったところでは、
 後半ほどキツイように設定されている」


なるほど。そうでしょう。
しかし、わたしは自分に負けませんでしたよ。
どんなに苦しくても、歯を食いしばって、
負けるもんか、逃げるもんか、と一生懸命がんばりましたよ。


「苦しかっただろう?」


もうホント、苦しかったですよ。


それで、わたしは何点ですか?


「何点?」


そうです。
こんなことを言うと自慢みたいですが、
けっこういい点数を取ったかな、と思っています。


「そんなものはないよ」


ええ? わたしは不安になった。
じゃあ、わたしはいったい何のために嫌なことを嫌々してきたんですか?


「そりゃあんた、自分のやりたいことをしなかったからだろう?
 自分のやりたいことをしなかったら、
 他人のやりたくないことをやらされるようになってるんだよ



そ、そんな……。


「まあ自分で地上に降りていったんだから、人のせいにしちゃあいけないよ」


……わたしは自分で地上に生まれていったのですか?


「そう。覚えてないかね?」


そうか。そうだったんだ。
わたしはきっと、試練を乗り越えて、
自分の使命を果たすために、自ら地上に生まれていったんだ……。


ひとり人生の意味を噛み締めているわたしに対し、
閻魔さんは涼やかな顔をして尋ねた。


「なぜ点数がほしいのかね?」


え? そりゃあ、いい点数をつけてもらいたいじゃないですか。
八十点以上だったら天国に行ける。
そう思って、苦しいときもずっとがんばってきたんですから。


「おれにはさっぱりわからんなあ。
 人から点数をつけてもらわないと安心できないという神経が」


なぜです? 人から誉められたら嬉しいじゃないですか?


「そりゃ嬉しいよ。でも、何をして誉められるかによるよ。
 もしあんたが教科書通りの百点満点の人間になったとして、
 それがいったいどうだっていうんだ?」


どうって?


「みんな、『へえ、そうなんだ』と思うだけ。ただそれだけさ」


……そんな。


「点数をつけられて喜んでるということは、
 だれかが作った型枠にはまって満足してるということさ。
 けれど、そんな他人の作った理想像になったところでいったい何になる?
 そんなものは偽物にすぎないと思わないか?」


……。


「わたしは何人もすごいなあと思う人を見てきたけどね、
 そんな人に共通するのは、他人の真似をしなかったってことなんだ。
 彼らは教科書にしたがったのではない。
 自分のビジョンにしたがったんだ。

 彼らにとっては、教科書なんてどこにでも転がっている。
 そしてそれは、自分が学ぼうとしたときだけ見えるもんなんだ」


……。


「大切なのは、自分がどうしたいのか、そのビジョンだよ。
 そのために教科書が必要なら、思う存分学べばいい。
 点数もビシバシつけてもらえばいい。
 だが、教科書や点数の奴隷になっていてはだめなんだ」


不安になってきたわたしは、気になっていたことを思い切って尋ねた。
閻魔さん?


「どうした? 顔色悪いよ?」


まさか、わたしが地獄に行くはずはありませんよね?


「……まあ、あんた次第だな」


ええ? どういうことですか?
わたしはたくさんの善行を積みましたよ。
そんなわたしが地獄へ行ったら、みんな地獄へ行かなきゃおかしいですよ。
そんな理不尽な判決、わたしは認めません。控訴します。


「控訴って」


わかった! あんた次第だと言いましたよね?
つまり、賄賂を求めているんですね?
なんと汚らわしい!
地獄とは、あなたの心の汚れを言うのです。
わたしを裁く前に、まずその汚れから取り除きなさい!


「ちょっと、まあ落ち着いて」


では、わたしは天国行きですか?


「……ああ、ここは天国だよ」


よ、良かった!
じつはここにくる前、閻魔さんは傲慢で
人を正しく裁いてくれないんじゃないかと心配していました。
でも、本当は分別ある立派な方なんですね。


閻魔さんは大きなため息をひとつついた後、
テーブルに置いていた眼鏡をかけ、閻魔帳をめくりながらつぶやいた。


「みんなに同じことを何度も言うけどね、
 別にワタシャ何も裁きゃしないよ?
 さっきも言ったように、人に点数をつけるのは嫌いだ」


そうなんですか?


「そう。なのに地獄の好きなヤツがいてね、
 行くなと言うのに勝手に行ってしまうのよ。
 それで苦しかった、苦しかったと言いながら嬉しそうに帰ってくる」


バカなヤツもいるもんだ。
閻魔さんもそんなヤツがきたら、止めてあげなきゃ。


「そうだろ? だから、もう行くな。頼む。見ていて辛い」


は?


「だからここが天国、地上が地獄なの! わかった?」


え、ええ! 


仰天するわたしを見て、閻魔さんは思わず噴き出した。


「ま、ゆっくりしていきな」


天国か地獄か 終
posted by marl at 03:03| Comment(3) | TrackBack(1) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。幸せマンさんのブログからやってきて
読ませてもらいました。すごく深くて面白いですね!!一気に読んでしまいました。
「自分の好きなことをやらないと、他人のいやなことをやらされる」名言ですね!
Posted by いとけん at 2005年05月15日 05:22
いとけんさん、はじめまして! marlと申します。
幸せまんさんとお友達なんですね!
じつは1回ブログに訪問したことがあります。
わたしのブログに来てくださって
ホントにありがとう!
誉めていただいて嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします!

いとけんさんはマーケティングに詳しいようですね。
わたしもブログを立ち上げて半月ほどですが、
どうしたらみんなが見にきてくれるのか
試行錯誤中です。
人を呼び込む仕組みって
別に考えなきゃならないんですね。
これからこのブログでいろいろ教えてください。

またわたしの方へも遊びに来てくださいね!
それでは!
Posted by marl at 2005年05月15日 11:34
どうも!幸せまんです!marlさん物語中毒まっさかり!
コメントありがとです!おかげさまで元気爆発です!
成功の予感・・サイコーですね!絶対実現しますよ!
ブログで幸せの輪が広がってゆく感激!
みんなのブログはとても勉強になる!
自分も燃えてきた!
Posted by 幸せまん at 2005年05月15日 21:51
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