2008年03月03日

遊んで暮らそう

 突然テレビで大統領の演説が流れ始めた。


「みなさん! 毎日のお勤め、大変お疲れさまです」


 国民は突然の大統領の演説に耳を傾けた。


「今日わたしが話したいことは、新たな経済政策についてです。
 と言いますのも、わたしはこれまでたくさんの経済政策を
 打ってきましたが、失業率はいつまでたっても50%台なのです。
 他の国の大統領さんにも聞いたんですが、
『ちょっと異常じゃないですか?』と言われちゃいました」

 
 国民はじっとテレビを見ている。


「わたしはこの失業率を見て、
 そうか、半分の人が働いて、半分の人が遊んでいるのだな、
 だからわたしの経済政策もたいしたものだ、と思っていました。
 しかし、まだまだ全然ダメ!」

 
 国民はじっとテレビを見ている。


「なぜダメなのか。
 それは、みんなが楽しく遊んで暮らしていないからなのです。
 そこでわたしは考えました。
 みんなが遊んで暮らせる社会を実現します!
 もうみんながお金のことで困ったりしない、心配したりしない。
 そんな究極の政策をいま、発表します」


 国民はじっとテレビを見ている。


「たったいまから、みんなの銀行口座をひとつにします。
 名づけて、『みんなの口座』」

 
 国民はじっとテレビを見ている。


「その口座はこの国の国民であれば、
 ボタンひとつでだれでも使えるようにしました。
 そしてすべての国民が働いて稼いだお金は、
 必ずこの口座に入れるようにしてください。
 そうしたら、この口座の残高はいくら使ってもいつも同じ。
 みんなお金に困らないし、心配もしなくていいでしょう?」


 国民はじっとテレビを見ている。


「それではまた」


 大統領の映像はプツッと途切れた。


 わたしもぼーっと大統領の演説を聞いていた。
 口座をひとつ……。ん? え?


 す、すごい!
 これでお金の不自由はなくなる!
 それどころか、好きなものが何でも買える!
 いや、そ、それどころか、オレは何でもできる!
 なんなんだこの大統領は! すごすぎる!


 さっそくわたしは豪遊する手段を考え始めた。
 まずは車だ! 高級車を買って乗り回そう!
 それから豪邸の建築だ!


 わたしはさっそく高級車ばかりを扱うディーラーに電話を入れた。


「毎度ありがとうございます。高級車専門店カックイーです」


 とりあえずリムジンを3つ、フェラーリを5つ。
 それとベンツを7つぐらい、まとめて送ってくれ。
 いますぐにだ。


「申し訳ございません。
 たったいま、すべてのメーカーが生産を中止しました」


 なんだと? そんなバカな話があるか。なぜだ?


「それが車を作る人、みんな辞めちゃったそうです」


 はあ?
 まあいい。とにかく金はある。
 欲しいだけやるから、いますぐみんな連れ戻してこい。


「ムリですね。
 だって、みんなお金に不自由がなくなったんですよ?
 だから辞めたんですよ」


 なにぃ? じゃあ、なんでおまえはまだ電話番をしているんだ?


「あ、ホンマや。辞めよ。ガチャ」


 お、おい!


 まあいい。
 わたしはすぐに冷静さを取り戻し、次の電話をかけた。


「ありがとうございます。豪邸販売のゴールデンハウスです」


 もしもし。とりあえず庭付きプール付きの一戸建てを4つくれ。
 大盛り、いや大きめのサイズで頼む。
 金に糸目はつけない。


「あー残念。さっきみんな帰りました」


 帰ったあ? 仕事はどうした仕事は!


「仕事しなくてもお金が手に入るようになったんですよ。
 知らないんですか、さっきの大統領の演説」


 知っとるわ! だから豪邸を注文しとるんや!


「注文? 何を偉そうに」

 
 な、なんだその態度は?


「お、いい女。ガチャ」


 おおい!

 わたしは受話器を見つめて考え込んだ。
 落ち着け。
 ここはいったん落ち着いて、そうだ、まず自分が会社を辞めよう。
 そして気分的に優位に立とう。辞めてやるぜあんな会社!


 もしもし、あ、部長ですか。
 お休みのところ携帯にかけちゃってすみませんね。
 それで用件はですね、いきなりですけど、わたし辞めますわ。


「は?」


 だから、辞めてやるってこんな会社!


「え? 会社って何?」


 は?


「いま南の島でバカンス中なんだ。邪魔をしないでくれ。
 まったく、おまえはいつまでたっても邪魔しかできない男だな。
 ガチャ」


 お、おおい! もうバカンス?
 さすがは部長、仕事が早い、などと言っている場合ではない。
 わたしもバカンスだ! 旅行に行こう!


 わたしはさっそく荷造りを開始した。
 えっと、パンツたたんでと……って荷造りまったく必要ない!
 全部現地調達だ!


 わたしは着の身着のままで車に乗り込んだ。


 あたりは恐るべき渋滞である。
 なんでこんなに込んでるんだ……。
 すると隣に並んだドライバーが言った。


「みんな会社辞めて旅行に行く途中らしいですよ」


 あ、そう……。それでこの大混雑?


「飛行機も飛ばなくなったらしくて」


 みんな辞めすぎ。仕事しようよ。


「ガソリンスタンドも閉鎖したみたいでね。みんなガス欠」


 え、これ、動いてないの?


「そう。もう誰も車に乗ってないらしいですわ」


 な、なにぃ? じゃあなんでアンタは車に乗ってるんだ?


「あ、ホンマや。帰ろ」


 お、おい!


 わたしは考えた。
 なぜだ。なぜみんなより一歩遅れているんだ? 


 まあいい。
 一度銀行に行ってみよう。大金を確実に押さえるのだ。


 銀行についたわたしは『みんなの口座』を開いて驚いた。
 すごいなこの口座は。
 一、十、百、千……えっと、千兆の次は何だったっけ?
 とりあえず、五百億ぐらい下ろすか。


 しまった、出しすぎた。
 これはとても持って帰れる量ではない。
 仕方ない、自分の口座に振り込もう。
 いや、自分の口座はもうないんだった。
 ……戻すか? いや、面倒だな。


 わたしは札をポケットに入るだけ突っ込んで、
 札を銀行に撒き散らしたまま家に向かった。
 しかし、どうやって使うんだこの金?
 みんな働いていないし……。


 すると突然、わたしは襟首をつかまれた。


「おい、おっさん、食い物をよこせ。さもないとおまえを食べるぞ」


 ちょ、ちょっと待ってください。け、警察!


「オレが警察だよ。おまえ逮捕」


 お、おおい!


 その頃、テレビでは再び大統領の演説が流れ始めた。


「みなさん! 毎日のお遊び、大変お疲れさまです」


 国民は突然の大統領の演説に耳を傾けた。


「今日わたしが話したいことは、先般の経済政策についてです。
 と言いますのも、わたしはこれまでたくさんの
 経済政策を打ってきましたが、
 この間の経済政策がひさびさの大ヒット! 
 とうとう失業率は99%に達しました!
 目標まで後1%! みんな遊んで暮らしましょう!」
posted by marl at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 空でうたたね物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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